午後の呼び声に溶けて
「……誘拐犯にしか見えねえな」「しょうがねえだろ消去法なんだからよ!」
出ていったゴリさんとシャノンを見送っていたハインケルのおっさんがぼそりとそう呟いたがかねがね同意だった。体格差がありすぎてシャノンの細さは目立つし、逆にゴリさんのごつさが際立っていて悲惨としか言いようがない。まあ上手いこと人目に触れない様にやる器用さはあるだろうから大丈夫だろうが。
「なら俺が行ってもよかったろうが」
「一番論外だ!」
グリードがにたにたと嫌な笑い方をしながら肩を組んできたのでばっとそれを振りはらいながら噛みつくように否定する。こんなのと一緒に行かせてみろ、どうなるか分かったもんじゃないし人目とかそれこそ気にしないタイプだろうことも分かっているので危なっかしくて無理だ。そんなことをぶつぶつと言えば余計に面白そうにげらげらと笑うものだから「ああ?」と睨みつければそれすらも面白いというように笑いを酷くさせた。ホントこいつの笑い方うるせえ。
「こんな豆でも年頃なんだな」
「豆いうな!!」
誰が豆だと怒鳴ればそれを無視してため息をつくハインケルのおっさんはグリードになにか同意を求めようになあ、と顔を向ける。最近思ってたけどお前ら俺の扱い雑になってきたよな。
「いやあ、見ていて恥ずかしいくらいだったな」
「俺にもこんな青い時代あったもんなあ」
「何がだよ」
「自覚ねえあたり重傷だな」
青い青いと二人して急にもの知り顔で相槌を交わし始めたので付き合うだけ無駄だな、とばっちゃんに渡されていた機械鎧の整備用品で久しぶりに自分でメンテナンスをしようとオイルを手に取った。精々良すぎる鼻を曲げてしまえ。
ふと、写真を張り付けているコルクボードに目が行く。ここに戻ってきたときも全く気にも留めていなかったせい随分と久しぶりにそれをじっくりと眺めた。丁度座っていた場所から近い位置にあったのもあり、一つ一つに目が泳ぐ様に滑っていく。昔から変わらない写真もあれば、新しく追加されたものもあったようで色の褪せ方がだいぶ違う。俺とアルがまだ五体満足だったころのなんてなかなか年季が入ってきておりセピアに色づいている。俺とアルとウィンリィとシャノンが四人そろって映っている物も多く、総じて幸せそうに笑っていてこんな時もあったんだな、とそれらを目で辿っていく。水浴びしてウィンリィだけべそをかいているもの、俺とアルだけ泥だらけのもの、全員で手を繋いでいるもの、昼寝していたのかデンも加えて寝ているもの。俺もアルも、きっとこのころの様にはもう笑えない。なにも知らなかった餓鬼ではなくなったのだから、こんな無垢には笑えないだろう。例え無事に体が戻ったってそれは然りだ。ウィンリィなんて一番変わったんじゃないだろうか。こんなバカみたいな笑い方今じゃめっきり見なくなった。
知ったうえで、経験を積んだうえでこのころとは違う笑顔になった。俺もアルもウィンリィも。
泳がせていた目が、見慣れぬものに止まる。そこには鎧のアルが映っていていつの間にと思ったが隣にシャノンが映っているのを見てああ、と納得した。背景から見てもこの家ではないしリゼンブールでも無いのかもしれない。アルが一度、「シャノンの家に」などと言っていたのを鮮明に覚えていたのでそこなんだろうなと検討をつける。アルのあの体も相当デカイから、やはり隣にシャノンが立っているとその差が顕著だ。そして、そこに映っている笑顔に顔に緊張が走った。
なんだ、この顔。あいつこんな顔で笑ってるつもりなのか。
他にも俺達が出ていってからの物であろうシャノンの写真を見ていく、ウィンリィと二人で映っている物、去年の羊祭りの物であろう物、デンと店の前で撮った物。そのどれもが総じて違和感バリバリの作り物でしかなかった。
俺と会ったときは驚いていた表情しか見なかったし、先ほどまでもどこか気まずい思いでぎこちないのだろうと思っていたがそうではなかったようだ。俺もアルもウィンリィも、色々知って苦しんで、そのうえで笑う術を知った。けれどこいつだけは笑えなくなっていたんだと俺はその時初めて知った。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905