午後の呼び声に溶けて
ダリウスと名乗った彼は、私が話せないのだと知るとこちらが恐縮してしまうくらいに気を使ってくれた。最後には目線を合わせてくれるために少し屈んでまでくれたものだからいっそ申し訳ない。鋭い眼光や人を寄せ付けないような雰囲気など吹き飛ばしてしまうくらいに優しい人だと身に沁みた。荷物も軽々と全て持ってもらっているせいで私は結局財布の入ったショルダーしか持っていない。「俺たちの食べるもんだろ?」とお金まで出してくれそうになったのは流石にお断りしたが。「俺と眼鏡のおっさんはまあ…軍人だな」
『もう一人の黒髪の人はどなたですか?』
「……あー、あいつもちょっとした縁があって一緒に行動してるんだ、眼鏡がハインケルで、黒いのがグリードな」
歩きながら文字を書くことにも随分慣れた。どうしても走り書きのような文字にはなってしまうけれど歩みを遅くすることも無くなった。その手帳を手を伸ばしてダリウスさんに向け、ダリウスさんは少し身をかがめてその文字を目で追う。私は慣れたとはいえ、初めてこうして話す人はやはり戸惑いが見られるし、スムーズに話せるとは言い難い。だからこそ意思疎通をしてもらえるありがたさをひしひしと感じる。
それにしても、グリードなんて不思議な名前だ。あのニヤリと笑った顔にはなんとなくその名前がしっくりと合っているようにも思えてそれ以上の違和感は覚えなかったが。
「エドの一つ下だったか、歳」
その問いに頷いて肯定を示せば「随分しっかりしてるなあ」と関心を貰った。歳の割に小さいと言われがちだったので珍しくそういった反応を貰って面食らってしまう。私なんかより姉やエド、アルの方がよっぽどしっかりしているだろうに。聞けばダリウスさんは姉とアルにもあったことがあるそうで(とは言っても本当に少し話した程度らしい)姉に似てないなと言われたので素直に血のつながりのないことを伝えた。すまんと謝られてしまったので誤魔化すべきだったと反省し、こういうところが恐らくは「大人」としては未熟に言われるんだろうなと思った。
『姉は元気でしたか』
「……ああ、最初に伝えるべきだったな、エドから聞いた話だとアルフォンスと一緒にいるらしい」
その言葉に、心底ほっとした。よかった、よかった。ダリウスさんもどこにいるのかまでは知らなかったが、恐らくそろそろここに戻ってくるだろうと教えてくれた。どうやら今回のエドの帰郷も、姉がここに戻っていると思ってのことだったようだ。少しだけまだしこりのような不安は残っているけれど、アルと一緒にいると知れただけでとても安心した。エドも帰ってきた、なら姉もアルも帰ってくるだろうと思えた。
実を言うと、誤魔化して大丈夫と自分に言い聞かせるのにも限界が来ていたのだ。それを自覚してしまうほどに参っていた。もしかしたらあの時の様に、急に死の知らせが来るかもしれないと怯えていた。そんなはずないと思ってはいても実際に二人は戻ってこなかったのだからもしかしたらと考えてしまうと堪らなく怖かった。でも、大丈夫、まだ私は待てる。
「こんなに心配してくれる家族がいるってのは幸せもんだな」
そう言ってにっかりと笑ってくれたダリウスさんに心の中でもう一度感謝を述べた。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905