蒙昧が明ける
息子たちは驚くほどに立派になっていた。情けないことにあいつの企みをどうにか一人でなんとかしなければと思っていたのに、あんなにも助けられてしまった。そして同時に、息子達も沢山の人に助けられていてあああんなにも周りに囲まれているのなら大丈夫だろうと勝手に安堵した。どうやらトリシャ、お前に似て人を寄せる魅力が二人には遺伝したらしい。自分たちの為に賢者の石を使わないと豪語したエドを、どうしようもなく誇りに思う。それでも父親らしいことをどうしてもなにかしたくて、あんなことを言って泣かせてしまったがあんなに強くて真っすぐに育ってくれてよっぽどトリシャに愛されて育ったのだと思い知った。もう先に死なれることが嫌で、一緒に老いて死ねるならと研究をしているうちにあいつの企みを知って。俺がけじめをつけるしかないと思った、あいつは俺から生まれたのだからそれが当然だと思った。それを止めるために旅を始めて、結局トリシャには先に逝かれてしまった。多分君はそれでも怒らないだろうけれど、ちょっとくらい思ってくれた方が、寂しがっていてくれた方が嬉しいなんて言ったらダメだろうか。
本当になんにもしてやれなかった、けれど最後にトリシャに少しだけ息子達の土産話ができた。俺の中にいた賢者の石にされた魂の中にも、自分から息子たちの為に使われてもいいと言ってくれたものもいた。それくらいにあの息子達も人に思われる人になっていた。
使われてもいいと言えば、あの子、シャノンちゃんという女の子。あの子の喉を治してやれと何人もの魂に言われて俺もその気でいたけれど、そんなことしたらそれこそ野暮だろうと結局は辞めた。それに、多分エドとアルをまた泣かせるかもしれないと思うと出来そうになかった、ヘタレだと言われそうだけどもう泣かれるのは勘弁だ。
「そう、一番の土産話」
そう言ってあの日、あの子が俺に渡してくれた手紙を鞄から撮りだす。もう手もボロボロと枯葉の様に砕けていたが今それはあまり気にならなかった。
「息子宛てに女の子からのラブレターだよ、まさか読めるとは思ってなかったから驚いたんだ」
あの子はそんなつもり微塵もなかったんだろうけれど、読ませてもらった俺からしてみればエドワード宛てに綴られたラブレターだった。こんなに純粋にエドを思ってくれている子がいるんなら、なんの心配もないなと笑ってしまうくらいに、眩しすぎるくらいに真っ直ぐな思いが綴られていてまた一つ息子を誇らしく思った。しかしエドよりも先に読んで、挙句本人にはその存在すら伝えていないとなればまたエドに怒鳴られるだろうなぁ。
「なあトリシャ、君はこれをエドワードに渡すべきだと思うかい?」
その判断が結局つかなかった。アルにも、これのことは言わなかった。シャノンちゃんという女の子の想いに圧倒されてしまったと言ってもいい、俺がそれを崩していいのか分からなくてビビってこの様だ。
「だからさ、トリシャ、君が決めてくれ」
そっと手紙を墓石の上に乗せる。いつか、あの子が花を供えたようにそれをトリシャに捧げる。息子達二人がここに戻ってくるのはまだきっと先だ、それに雨風だってある。簡単に飛んでいってしまうだろうけれど君の事だからどうにかしてくれるんじゃないかな、なんて勝手に思う。
「俺は、ダメ親父だからなあ」
シャノンちゃんが思ってるようないい父親ではない。だからだろうか、無責任にもあいつらならこのことを知っても大丈夫だと思えることは、ボンクラ親父だからこその想いなんだろうか。でもまあ、それでもいいかなあと思ってしまったのだから優しく手紙をなぞる。
トリシャは優しいからなあ、たぶん、大丈夫だと思うんだ。
願わくば、君の残してくれた息子達が笑っていられたらなと、そう思う。
2017.1.29
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905