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 朝から妙なものにつけられて挙句に毒気に当てられて、遅刻ギリギリで滑り込んだ教室で顔が真っ青だと驚かれて保健室に押し込められた。
 外から男子生徒の快活な声が聞こえそういえば今の時間は合同の体育だったなと思い出す、西村が隣のクラスの女子にいいところを見せるんだと張り切っていたが残念ながら女子は室内で球技だったはずだ。たしか男子は野球だったかと、持ってきたのに不要になってしまったジャージが虚しさを助長させ、どうせだったら出たかったなという思いが出てしまったが仕方がないだろう。自分でもわかるほどに気分が悪かったから。
 しかしこんなに早く良くなるなど思ってもいなかったなと伸びをし、無人だったために案外すっきり眠れてしまったと苦笑すらもれた。また眠る気にもならず、カーテンを開けて窓の外を覗く。しかしここからグラウンドは遠く姿は全く見えそうにない。田沼のクラスとの合同授業だったから俺も少し楽しみにしていたのだが、残念ながら彼の勇士も見ることは叶わないだろう。田沼の運動神経があまりよくないことはここだけの話だ。
 次の時間からは戻っても大丈夫だろうと脱いでいた学ランを手に取り、靴を履こうとしてそういえば反対側で脱いだんだと背を向けているまだカーテンの引いてあるそちら側に体を向ける。
 なにか夢を見ていた気がするのだが珍しく起きた時に綺麗に忘れてしまっていた、それが少し勿体ないような気がして思い出そうとしてみるが欠片も思い出せそうになくて諦めた。白いようで少し日に焼けたせいか色の褪せたカーテンを引いて、絶句。隣のベッドは無人だと思っていた、というよりこの部屋には俺しかいないと思っていたのだが隣には女子生徒が寝転がっていた。どうして仕切りのカーテンを引かずに堂々と眠っているんだとか、寝相が悪いのか目のやりどころが少し悪いだとか、いやそれ以前に。
「(なんかいっぱいついてる!?)」
 寝苦しそうにうぅん、と身じろいだせいで白い首元がさらけ出されて鎖骨が目に付いてしまう。そりゃ寝苦しいだろう、だって色々と纏わりついている。蛇のようなものから子鬼のようなもの、かと思えば黒い靄のような姿のハッキリしないものや狐のような動物に似た目の赤い獣。ようは妖ものがうじゃうじゃと、そりゃもううじゃうじゃと眠っている彼女に群がっているのだ。異様な光景にもしや眠っている人間すらも妖なのではと疑ってしまったがしかしその顔には見覚えがあった。田沼のクラスで…名前は何だったか、俺も一度話したことがある。そうだ、多岐とも仲のよくて確か…なまえ、だったか。多岐が名前で呼んでいた為性はわからないが、名は確かそうだった気がする。
 前に田沼と町の小さな祭りに行ったときに、多岐は彼女とまわっていたらしく偶然屋台で焼きそばを食べていたところを目撃したのが初めて彼女にあった瞬間だった。流れで一緒に回ることになったのだがどうも、とやけにあっさりとした挨拶で笑顔すらなかったのを覚えている。多岐がそれに対してもう、と少しだけ怒ったような素振りをしていたがそれも気にした様子もなく黙々と麺を啜っていた。よるところよるところで屋台からなにかしら手に入れていたのでよく食べる子だなという印象を持った記憶があるが、それ以上に少し変わっているなと思った。
 そして案の定というかそういう場によく集まる妖に絡まれてしまった俺は、その3人の前で妖に首を絞められてしまった。田沼と多岐はその理由を分かってくれてはいるが初対面の彼女はそれを分かるはずもない。田沼が気を使って大丈夫かと声をかけてくれ、察した様に小声で聞いてくれたのだが運悪くそれを耳にした彼女の反応が、初対面だとか関係なしに思いっきり突っ込んでしまった。
「わ、悪い。もう平気だ」
「夏目、もしかして……今、」
「悪阻?」
「なんでだよ!!」
 その時の衝撃の会話がこれだ。
 田沼はその言葉に一瞬間を開けた後爆笑するし、多岐は多岐で笑いを耐えているのかプルプルと体を震わせている。言った本人と言えば爆弾発言の自覚がないのかただ淡々とたこ焼きを頬張っていた。
 そのあと彼女との関わりはなかったのだがまさかこんなところで、しかもこんな光景に出くわすだなんて誰が思っていただろうかと思わずにはいられなかったが「う」と苦しげに歪んだ顔を見て慌ててそれらを引きはがそうと慌ててベッドから足を下ろした。



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投稿日:2017/0926
  更新日:2017/0926