3
ぱちりと目を開けて目に飛び込んできた光景に唖然としてしまう。だって人の顔が目の前にあったのだ、たしか私は保健室で寝ていたはずでケンちゃんは今日いないはずで。
いやケンちゃんだって寝ている私をこんな至近距離から覗くなんてしないしなにより顔はケンちゃんの顔じゃない、髭ないし。
あんまりにも驚いたものだから暫く茫然としてしまい、そのせいで反応を取り損ねる。騒音があったり何かが触れて眠りから覚醒させられていればまあ違っただろうが、突然起きてしまったせいでなにもかもが唐突になってしまった。
しかし相手は違ったようで暫く目が合っていたと思ったら急に顔を赤らめてワーワー騒ぎ始めてバッと距離をとった、いやそれ私の反応じゃないか、女子か。のっそりと起き上って伸びをすれば多少は気だるさが取れているのが分かった。
「違うんだ!違うんだこれには訳があって決してその、変な!その!」
「変な?」
変な?変な顔ってか?ケンカ売られてるのか私。
何言ってるのかわからん、落ち着けと思いながら欠伸をくぁ、と一つ。寝起きの声はかすれていてやっぱりここ加湿器買うべきだなと乾燥した空気に内心眉を寄せた。しかし誰だっけなこの人。知らない人ではない気がするんだよな、と少し考えるが脳の中に該当者がない。恐らく友達の友達とかそんなあたりだろう、委員会ではないしただ見ただけというには妙に既視感がある。未だに顔を赤くして手を無意味に動かしている彼だがまだ落ち着かないのだろうか。というかもしかして私寝顔見られてたのだろうか、幼馴染みの透曰く面白い寝顔ということなのであまりよろしくないことだと思ったがそういえば彼女の美的センスは壊滅的なことを思い出して気にしないことにした。ごめん透。
それにこの彼の空気からあまり人を馬鹿にするような質にも見えなくて、なら私の寝顔が不細工だとかいう不名誉な噂が流れることもないだろうと頭からその思考ごと追いやった。
寝相がよろしくないせいで髪がすごいことになっていそうで適当に整えようと手を触れれば案の定蜘蛛の巣の様になっていてぐちゃぐちゃと掻きまわせば多少はよくなったような気がして満足し彼の方に向き直れば未だにわたわたと慌てていたのでため息をつきたくなった。そしてふと、彼が誰かを思い出した。ああ、と声を出して彼を指さして喉のギリギリまで出かかっているそれを出そうと考える。
そうだ透の友達の。
「誰だっけ」
「へ、あ、2組の夏目……って覚えてないのかよ!」
「いやお祭りで透と田沼の悪阻の」
「その言い方と覚え方やめてくれ!」
あぁそうだった悪阻は妊婦がなるもので吐き気のことをいう訳ではないと透に訂正されていたのだが寝起きで頭がよく回らなかったせいで間違っただけだからそんな照れんなって。元が白いせいか顔が赤くなった時に心配になるくらいなレベルで染まっている。照れ屋なんだろうか。
「えっと夏目君、具合平気なの」
「え、いや俺は……」
「そ」
保健室で寝ていたのだろうからつわ……吐き気とかで具合が悪いんだろうと思ったのだがこんなに叫べればまぁよくなったんだろう。窓側のベッドを貸してやったんだからよくなって然りだろう、なんて。声が詰まってしまったかのように黙り込んでしまって勢いがしゅんと萎えてしまった夏目君は視線を彷徨わせて口をもごもごとし始めた。シャイか。
「……聞かないのか?」
「何を」
「い、や……そういえば名前なんていうんだ?」
「あんたも覚えてないんかいー」
人のこと責めておいてこの野郎、ちょっと悪いなと思った私の良心を返せ、あと窓側使ってたことも謝れ。なまえだよー、透の幼馴染みで田沼のクラスのー。と答えればそれは知っていると言われた。そうじゃなくて苗字、と言われ険しい顔をしてしまった自覚があったがどうしようもなかった。あまり、好きじゃないのだ。理由も言いたくはない、眉が寄って睨むようにしてしまったせいで怯んだ夏目君に流石に申し訳なくなってしまい落ち着く様に大きく息を吸って、吐いた。
「じゃあ教える代わりに悪阻って」
「俺が悪かったからやめてくれ」
とうかそのネタもうやめてくれ、と切実な顔で言われたのでもうやめてあげようと思う。
投稿日:2017/0926
更新日:2017/0926