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 こんなに明るく清々しい日だというのに、それでも墓地周辺は時間の流れが違うかのように閑散としていた。先日は里で雨でも降っていたのか、すこし草の緑の匂いがたっている。その匂いに混じって誰かが朝方参ったのであろう、線香の匂いがほのかに香る。紛れもなく里の墓地の匂いだと、久方ぶりに訪れたそこにそう思って、同時に気持ちが落ち着くのが分かった。
 もう三年近く前になる木の葉崩しのせいか、前よりも増えた墓石にこれはお小言で済んで良かったんだろうかと思ってしまう。それに表に出て上忍とは、結果的には出世だ。働くようになった頭でそう結論付ければ他にもいろいろと考えつくことがぽんぽんと浮かぶ。暗部から表に戻される理由としては主に二つ、一つ暗部独特の危険な任務による怪我や死による脱退。二つ目は暗部としての匿名性が薄れてきたときである。顔を隠しているとは言っても任務を重ねていくうちに敵も情報を得る。そうしていくうちに元から危険な任務の難易度がグンと上がり、自分、ひいては組んだ味方にまで危険にさらすことに陥る。だからこそ暗部は殉職のせいもあるが人の入れ替わりが多い。火影様直々に選ぶことによる人選のため、簡単に入れ替えを行えないという事も事実ではあっても10年以上暗部を続けることはなかなかない。
 そう言えば、私もそろそろその期限ではあったのかと思い至る。私が知っているだけでは一人、いや二人だけがその10年を超えても暗部として活躍している筈だ。未だに暗部でいられるのは一重にその二人の実力があってこそだ、私にはそれはない。顔を隠す意味も薄れるくらいに特徴的な戦い方だったために班が違った私でも顔と名前を知っている。数えるほどだが何度か任務に就かせてもらったこともある。
 いくつか顔見知りの墓石をみつけ、ああ死んだでしまったのかと通り過ぎる。こんなに死んでしまったのか、それほどまでに砂の国も巻き込んだ大蛇丸の仕掛けてきた戦争は悲惨なものだったのだろう。そして火影様の命も刈り取っていった。優しいお人だった、とても。故に火影と言う重い責務に潰されてしまうのではと思ってしまうくらいには優しい方だった。けれどそれと同時に同じくらいに強い人でもあった、だからこそその重圧に耐えられてしまった、偲べてしまった。あんなに長い間その重圧に耐えたその最後は、いかようなものだったのだろうか。あの優しい三代目だ、たとえ闇に落ちてしまったとは言ってもかつての教え子に命を奪われるその悪夢は、なんてむごいものだったろうか。火を象徴するかのような石碑、そこに火影様が眠っている訳ではないのだけれどよく生前にここに訪れては憂いていたことを知っているからだろうか。
 誰もいないことをいいことに座り込んで石の炎を見上げる。雨風に晒されて色がくすんで事いるがその赤は前よりもずっと濃く見える。
「帰ってきてたんだね」
「びっくりしました、お久しぶりですテンゾウさん」
「またまた、気が付いていたくせに」
 こっちに向かって来ているのは分かっていたが私に話しかけてくるとは思っていなかったので驚きは本物である。覚えていてくれたらしい、というか私を私として認識してくれていたことに大層驚いた。
 依然と変わらずお元気そうである。座ったままでは失礼かと立ち上がろうとしたがいいから、と手で制されてしまった。相変わらずの紳士っぷりだ。そして同時に驚いたことに、テンゾウさんもいつの間にか表に戻っていたようで暗部の服装ではなく緑のベストを身に纏っていた。
「表に出るんだってね」
「……やっていけるでしょうか」
「僕でもやっていけてるから大丈夫だよ」
 あはは、なんて明るく笑うテンゾウさんを見ていると、こうして面に隠されず日の下でこうしている方が自然に見えるほどに太陽の下が彼は似合った。
「そもそもなまえ、君どうして暗部から外されたか分かってる?」
「……私なにかやらかしましたか?」
「やっぱり、理解してなかったんだね」
 しょうがないなあと雄弁に訴える視線から逃げる様に顔を反らせば、あのね、とその訳を知っているらしいテンゾウさんが口を開く。
 どうやら今回護衛していた大名様、木の葉からの私を戻すようにと言う要請を何度も蹴っていたらしい。しかも終いには私を専属で雇うなどと木の葉に勝手に言っていたらしく、知らないうちに私は囲われていたのだとか。言われてみれば当初の賊の殲滅もかなり初期に終わっていたのにもかかわらず任が解けない訳である。しかし腐っても相手は大名様、木の葉側も強くは言えなかったらしく内密に私に書を送り出先で別の暗殺任務を与えるくらいしか出来なかったらしい。通りで、とその話を聞いて納得する。相手の大名様には私の顔も名前も知られていない、ならば必要のない護衛で暗部を欠員させるより表に戻して大名とも縁を切ってしまえという事か。随分強行ではあるがならどうして今になってと思いそれを問いかければ思わぬ答えを返される。
「そりゃ、僕とカカシさんで進言したからね」
「え」
「君ほどの索敵能力を持った忍をなんの危機もない護衛に回したままなのは前から可笑しいと三代目にも伝えてはいたんだ」
 加えて私の護衛していた大名の汚職も浮き彫りになってきたとかで、その強硬手段に出たんだとか。明らかに大名の汚職が私が戻ってきた原因だなと解釈しながら、だったら別にもう失脚するであろう大名など無視して暗部にい続けてもいいだろうに、なんてむくれてしまう。そんな内心を察してくれたのか、「暗部に過ぎるのもいろいろ鈍るからよくないよ」と続けられてしまう。実際に表にでたテンゾウさんの言葉だからこそ重みがある。素直にその言葉に頷いたが、ここはひとつ先輩の胸を借りようと口を開く。
「表の任務はどのようなものがあるんですか」
「ん?そうだな、暗部のものほど複雑なものはないよ、国の関係に関わるほど大きなものもそこまでないし」
「それじゃあ木の葉内内部の問題が多いんですか?違法武器商人のアジト抹消だったり人身売買のマーケットに潜入して忍の死体を回収したり……」
「暗いし重い」
 げっそりするテンゾウさんに首を傾げつつ、反応からして違うのだろうと理解する。内容的には自分ではBランクだと思っていたのだが様子からしてそもそも表にこういった内容は回ってこないようだ。あとは何だろう、危険度の問題と言うのならば戦闘の可能性がもう少し低いものだろうか。だったら拷問ぐらいしか思い至らないんだが。
「まあそのすっかり暗部に染まっちゃってる考え方とかも、好ましくはないんじゃないかな」
「そまっちゃってる」
「それに中忍以下の部下と任務につくこともあるしね」
「ぶか」
 部下、前代未聞である。
「殺気、殺気がすごいよなまえ、それじゃあ部下が怯えちゃうよ」
「え」
 だめなのか、それじゃダメなのか。暗部ではこれで先輩から可愛がってもらえたのにダメなのか、その先輩の一人にあなたもいたじゃないか。
「と言っても僕も表に出て少ししか経ってないからね、表に戻って三年近くたった先輩にでも話を聞くといいんじゃないかな」
「先輩?」
「カカシ先輩」
 嘘だろあの人まで表に、しかも三年近くとか、嘘だろ。


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投稿日:2017/0926
  更新日:2017/0926