2


 さて、一度私の人格の話に戻ろうかと思う。こんな人格を形成するにあたって大きく影響を与えた要因の話だ。なにも私だって最初からこんなに枯れた思考を持っていた訳ではない。多くの人がそうであるように、私も四歳までに個性が発現した。そしてまた多くの人がそうなる様にその個性は私の性格に大きく影響を与えたのだ。恐らくはあの爆豪くんもそうだろうが個性によっては人格を大きく変化させることが多々ある。ああして表面化して分かりやすく攻撃的にあることもあれば、私の様にひっそりと内面を腐らせることだって珍しいことではない。
「(分かりにくかったけど溺れてた訳ではなかった、個性が暴走……違うな「使わされた」感覚もあった)」
 この時間誰も使用していない特別教室のかたまるフロアへ続く階段の中ほどに座り込んで足を三段下まで伸ばす。歪になったスカートのプリーツをなんとなしに伸ばしながら頭の中で混濁する光景を一つずつ片づけていく。数名が纏まって登校してきたのだろうか、昇降口から遠い筈のこの場所でも僅かに高い声が聞こえてくるのをBGMに肩にかけたままだった鞄をやっと階段に降ろした。

 対象の名前をフルネームで知る。対象と目が合う。対象が私の名前を知っている。対象の誕生日が前後30日以内である。それらの条件がそろったときに初めて私の個性は発動する。戸籍上「予知」なんて仰々しく名付けられたそれはしかし、まさしく予知であった。最初にこの個性を使用してしまったのが三歳の時。朝、顔を洗うために母親に抱えられて洗面台で自分の顔を見た時がそうだった。温めのお湯を流していた蛇口から落ちるそれのように脳内を通過した景色はどうやら自分の部屋を映していたが、突然そんなものが頭に浮かんですっかり混乱した私はすこし騒いだ後それ以外の事をすっかり忘れた。それが四歳の誕生日一か月前の日だったそうだ。これは個性だろうと病院に連れていかれこれでもかと検査を繰り返した結果、私の個性は予知というラベリングされた訳である。もう想像に容易いであろうが、自分の未来すらも見えてしまう個性である。早々に私は自身の生活をつまらないものにしてしまった。誕生日から前後一か月という制約こそあるものの、そこに周囲の人間が混ざればそれなりに自分の未来も見ることが出来てしまうもので、ある時は友人の目線で自分がすっ転んで大泣きしている光景を目撃したし、ある時は先生の目線でテストの採点を見ることだってあった。
 未来は絶対です、なんてこともなく転ばない様に注意すれば赤っ恥をかかずに済んだしテストの点数だってぐっと伸びた。人生イージーモードである。そんなことを繰り返していた小学4年生の自分の誕生日の日、劇的に人格を崩壊させることが起こった。元々誕生日当日に近い程より鮮明に、より長く、より先が見える傾向があることは分かっていたのだ。その日も先の自分はどうなるのかと特にワクワクすることも無く、いつものように息をするように自分の目を鏡越しに覗き込んだ。そこで私は、あろうことか自分の死を目撃してしまったのだ。その時の衝撃たるや、今でも鮮明に思い出せるのだから相当だ。暫くは混乱したし恐怖したのだが、ふと、本当にふと思ってしまったのだ。この未来を避けたとして、意味があるのかと。どうせ、死ぬのに。不変の真理であった、避けようもないどうしようもないことだった。多くの予知をして未来を変えてきた中で、初めてぶつかった変えられないことだった。それがまさか自身の死である。これで歪まない方がきっと精神的に不健全だと思うし、それでもなお正常でいられる人種はきっと既に破綻している部類のそれだ。
 はたしてそんな風にしてこっそりと捻くれる程度で済んだ私だが、その日以来なるべく個性を使わない様に過ごしてきたのだ。しかしまさかのここで、あの爆豪くんに対して使ってしまうとは不覚以外の表現が出来ない。しかも、あれは、放置してしまえば大怪我をする類のそれであった。
 さて、どうしようかなあ。というか爆豪くん私の名前知ってたんだ、意外だなあ。そんな現実逃避を許さない様に始業五分前の鐘が一人の空間を振動させた。


 - return - 

投稿日:2017/1028
  更新日:2017/1028