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一度だけ期末テストで一位の座を奪われたことがある。
二年の二学期期末テストでそれは起きた。調子が悪かった訳でも無く普段通り手ごたえしかなかったテストだった。手渡された自分のテスト結果の纏まった小さな紙にはクラス順位と学年順位が記されていて、そこまで学力のない学校で一位を取るなんて笑えるくらいに簡単だったのだ。見事に並ぶ1、見慣れたそれを配られた時に、どうしてかそこにいくつか2が混ざっていたのだ。は?なんだこれミスか?なんて思ったのは一瞬で次の瞬間にはいったいどいつだと煮えかえるような腸を奥歯を噛んで必死に抑えた。勝手に俺の結果票を覗き込んだ奴が「カツキが一位じゃねえ!」なんて騒いだせいで余計に内臓が沸騰したがそれでも耐えた。担任に気に入られていた自覚はあったのでそれをここぞとばかりに利用して上手いこと聞き出したところ、あっさりとその名を知るに至る。
「みょうじは全国模試でも好成績だから分からないことがあれば聞いてみるといい」
みょうじ。まったく記憶にない名前だった。誰だそいつと教室に戻って確認すれば俺の斜め前に座っている奴だった。地味で目立たないモブらしいモブ。記憶にすらとどまらない背景のようだったそいつが突然浮き彫りになって存在を主張し始め視界に止まる。期末が終わって暫くは一体だれが学年一位なのかという話題でクラスがざわついていたのを見る限り自分がそうだとは主張していないらしい。それがまた俺の癇に障った。学年末ではまた俺がすべて一位だったがあの結果はもう不変のものとなってしまった、汚点となってしまった。それなのに平然として学年末の結果票を碌に見ることも無く鞄にしまったそいつの行為が目に付いてしょうがなかった。友人がいないという訳ではないようだが如何せん騒がない。授業で当てられれば答えるので話せない訳ではない。デクのようにべらべらぶつぶつと余計な事まで話すような輩であればいっそ罵ってやれたのだが、いいのか悪いのかみょうじはテストの結果以外で俺を苛立たせることが全くなかった。見ていれば余計な事をせず無駄のない効率的な奴だと分かったし、向こうから絡んでくることもまずない。だから結局そいつと話すことは終ぞなかったのだ。
そんな奴が、どうしてか俺に話しかけてきた。掃除に向かうクラスメイトに紛れるように、ひっそりと俺に話しかけてきたみょうじはどこを見ているのか微妙に目が合わなかった。初めて真正面から見たそいつは本当にどこにでもいるモブで、けれど汚点を残したそいつをモブのくくりにすることすら癪で、この女は俺の中ではそんな場所でふわふわと漂ったままだった。
「爆豪くん」
「……あ?」
「帰り、敵に気をつけてね」
「は?」
端的にそれだけ言ってその場を去ったみょうじ。まるで小学校の先生の文言のようなそれをようやっと噛み砕き、端的に忠告を受けたのだと知る。
あいつが無駄な事を好まないことは分かっていた。だからか、普通ならば訳の分からないことをと怒鳴っているだろう言葉に、どうしてか苛立ちは湧かなかった。ただ、二学期期末テストの結果に記されていた2という数字を、どうしてか思い出してそちらの方に腹が立ったのだった。
投稿日:2017/1028
更新日:2017/1028