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降谷さんが仕事で失敗したという話が部内で持ち上がったのは2度目のお叱りから幾ばくかたった頃だった。詳細こそ聞かされなかったものの後始末にはちゃっかりと走らされた私はその全貌を時々聞こえてくる報告や先輩方の情報交換を盗み聞いて繋ぎ合わせることで粗方知るに至った。敢えて言わせてもらうが部署の人間に口の軽い人間は一人もいない。ただその人がこういう時にこんなアクションをする、ということを私が知っていてそれを注意して観察していたからこそ理解できただけである。例えば携帯を片手に目頭を押される風見さんの癖は自分の仕事が増えた時と、連絡を取りたくても取れなかった時の癖。ブラックの缶コーヒーをコンビニから買ってくる時は少しゆとりがある時。こんな風に地道に情報を集めつつ聞こえてくる言葉を繋いでいたお陰で一月もかかったが。優秀な先輩ばかりで嬉しい限りである(なかなか大きい事件だった上私自身も最後は参加させられたので聞けば教えてもらえただろうが癪だったので自力で調べた次第である)。
FBIの潜入捜査官、赤井秀一。今回の件で初めて名前を聞いたがどうやら以前降谷さんと同じ場所に潜入していたらしくその時になにかあったらしい。その何かの細かな部分は分からないが警視庁も絡んでいるらしいことまでは分かった。そしてその何がが降谷さんの私情に絡み今回の失敗に繋がった、そんなところだった。
「お久しぶりです」
「……ああ」
だから久しぶりに会ったときに、その場所がフロアの隅の人目のないジメッとした場所で、場所に違わずぼんやりと疲れを見せる顔をしていたせいで思わずカッとなってしまった。廃れた長椅子に座り込んでいた降谷さんがこちらを見上げた一瞬だけの表情だったが確かにその顔は疲れとそして落ち込みが浮かんでいたのだ。よく知る顔だった、悔いて嘆いて下ばかり見て「負けた人」のそれだった。
見つけたのも偶然で、決して彼を探していたわけでもなかった。けれどこんな場所でしかそんな顔を出来ないのかと、あの降谷さんがこのザマかと素直に苛立った。
「何をしてるんですか」
「休憩だが」
「その程度ですか、あなたは」
「は?」
「失望しました」
あれから一月以上。もうそれだけ時は過ぎた。
私だって貴方に砕かれた、けれど一瞬で立ち上がって見せたのになんてそんな身勝手な思いが浮かんでしまったのだ。あんな風に人格の切り替えを出来る人が、どうして心を切り替えられないのかとそんな風に思えてならなかった。だってそんな暇など私達にはないのだ。私の中での降谷さんはこの一月で次の攻撃に備えて虎視眈々と敵を討ち取ろうと、既に戦っているのだと思っていたのにとんだ買いかぶりだったと泣きそうにすらなった。
それなのに立ち直るどころか未だにジメジメとしていた彼を私はハッキリと見損なった。
投稿日:2017/1108
更新日:2017/1108