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 完全に八つ当たりだった。
 産まれてからずっと傍にいた、なにをするにも一緒だった。そんなやつが突然すべてを捨てて己の前からヘラッとした普段とおんなじ顔をして、それでも明らかな決別の言葉を口にして去っていった。あのちゃらんぽらんは、なんだかんだと言いながらもずっと明蛇にいるんだと思っていた。
 寂れていく寺、寺の事を悪く言う周りの大人。親父を信じられないと言って明蛇を抜けていった門徒も多くいた。幼いながらにショックな出来事で、けれどもそんな中でも志摩や子猫丸はいなくならないだろうという確信に似た安堵もあった。いざこざのあった明蛇も落ち着いて、親父も旅館の手伝いをするなんていって袈裟を脱いでしまった。皆勝手に進んでいっていることを嫌でも理解せずにはいられなかった。俺が今日に至るまでに、もがいている間に、彼らの心も決まってしまうくらいには当たり前だが周りの時間も同じく進んでいた、それだけの話。
 ただ、その中に志摩がいてその道が明確なほどに俺と、明蛇と離れて行くものだったからそれを簡単に認められずにいる。親父がもう経を読まない、ただそれだけのことだけでも暫くは気持ちの整理が付けられなかったくらいだから当たり前なのかもしれない。
「ねえ、勝呂君……志摩君転校するかもしれないって本当?」
「……は?」
 だから、これは完全に言い訳もできないほどに八つ当たりだった。
 志摩がいなくなり、神木がいなくなって、それでも悲しいかな学生。公欠で休むことのある祓魔塾生だからこそ、塾生として動けない今は学校に行かざるを得ない。なんの情報も得られていない今、出来ることは何もない。しかしだからといっていつの通りに過ごせと言われたってそんなの無茶もいいところで元々気の長い訳ではない俺は、それはもう簡単に崩壊した。キャパシティーも限界だった。ああいやこれは言い訳になるのか。
 みょうじの声は、心底心配そうなものだった。志摩と仲がいいことも知っていた、それなのにどうしてか何も知らずにあいつのことを純粋に、呑気に心配できるこいつに心の底から怒りが湧いたのだ。それは瞬間的なもので、ただの癇癪。
「最近ずっと休んでて……休む前もなんだか様子可笑しかったから……転校なんてうわさも流れてて、」
「関係ないやろ」
「……え?」
「外野やろ、ほっとけ言うとんねん」
 顔すら見ずに静かな声で放った言葉は本音がころっと零れたようなそんな音になってしまっていた。ハッとした時にはもう既に遅すぎて、慌てて顔を伺ったときにはみょうじは俯いてしまっていた。しかしなにか言葉を繕おうとしても驚くほどなにも浮かばず、嫌な心音だけが大きくなってくるのを耳の奥で感じることしか出来なかった。
「ごめんね」
 ふっと、肩の力を抜くように息を吐いたみょうじは、その息と一緒に小さく謝罪の言葉を吐いた。同時に顔もすっと上げ、申し訳なさそうに眉を下げて緩く口角を上げて。誰がなんと言おうと、俺に気を使って浮かべた表情と言葉だった。ぎゅ、っと体のどこかが悲鳴を上げたようなそんな気がした。そのままいつも通りの笑顔で、それでもいつもよりもあっさりと教室に戻っていったみょうじを情けないことに見送った俺に、ここにはいない筈の志摩が「あちゃ〜」なんてぼやいた声が頭の中で響いた。



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投稿日:2018/1020
  更新日:2018/1020