モナーク


コナン君にお詫びと伝えずに(この子はそんな事をしたらかえって気を使ってしまう賢い子なのだ)やんわりと欲しいものや食べたいものを聞いたのだが気が付いたらポアロに来ていた。ここでいいの?なんて言えるはずもなく促されるままに二人でテーブルについて注文を頼み、彼のホームズ談議を聞いていた。こういう所は新一くんに似ているなーなんて薄ら思ったが身振り手振りで全力でホームズがいかにすごいかを語るコナン君は可愛い。一通り話して落ち着いたのか不意にそういえば、とコナン君が話しを切り替えた。


「最近いぶきさん変わったことは?」


「え?特にないけど…どうして?」


「新一兄ちゃんが連絡返ってこないって心配してたから」


コナン君にそう聞かれ、んん?と首を傾げる。新一くんから連絡なんて来ていただろうか。もしかして気が付かなかった?と慌てて携帯を取り出し確認するもそれらしい通知はない。というより電話もメールもここ五日程来ていなかった。
それをコナン君に伝えるとそれは可笑しいと指摘を受ける。どうやら新一君が私にメールをくれたのが一昨日の事だったらしい。ちょっと貸して、と手を伸ばしてきたコナン君にどうぞと携帯を渡す。最近の小学生はすごい、自分のもつ機種と違おうがある程度操作出来るんだから賢い。私なんてずっとおなじ機種だからなんとかギリギリ使えているんだというのに。OSのアップデートの度にヒヤヒヤさせられているのはここだけの話だ。


「どうかしたんですか?」


「え?」


気が付いたらすぐ横に真っ黒いエプロンがあってギョッと驚く。思わず身を引いて顔を上げれば小五郎さんのお弟子さんが眉を八の字にしてそこに立っていて、あ、やってしまったと苦笑をして謝ればこちらこそすみませんと丁寧に謝り返されてしまった。紳士だなあ。そう言えば今日は梓ちゃんはいないらしくそんなポアロにくるのはほぼ初めてと言っていいくらいに珍しいことだったので少し新鮮だった。いや、まさにこの前沖矢さんに迷惑をかけてしまったときはそうだったか。両手を後ろに組んで立っている姿勢から話を聞く体制なのだろうと察し一瞬ぐるりと店内を確認したが私たち以外にお客さんは見えず良かったらと席を勧めれば嬉しそうに隣の椅子に綺麗な造作で腰を下ろした。


「多分なんですけど、携帯に連絡が届いていないみたいで…」


「それは妙ですね…振込みなどは勿論されていたんですよね?」


「引き落としで払っていたので間違いなく…コナン君なにか分かった?」


「また着信拒否の設定になってたよ、ほら」


え、とこちらに向けてくれた画面を見ると、どうやら登録されているメールアドレスすら受け取らないような設定になっていたらしい。ええ、と驚いて画面を詳しく見るも、契約会社のマイページでも無ければ自身の携帯の設定画面でもないらしく見覚えのないページが表示されている。しかし間違いなくそこに並ぶ文字は「全てのメール着信の拒否」と書かれておりなんだこれはと首を傾げた。


「…また?」


すぐ近くでそんな声が聞こえたと思ったらどうやら隣に座っていた彼が同じように携帯を覗き込んでいたらしく存外近い位置にあった顔に驚きつつも、今度はそれを隠して私もその「また」という表現に疑問符を付加させた。また?前にもそんなことってあっただろうかと考えるも該当項目が無くそう表現したコナン君に顔を向ければあ、と言わんばかりの表情をしていてこちらに携帯画面を見せるために乗り出していた体をぽすんと椅子へと落ち着かせてから口を開いた。


「し、新一兄ちゃんに聞いたことあって…前にもこういう設定にされてていぶきさんと連絡が取れなくなったことがあったって言ってたんだ」


「されていた?ということは以前も今回も誰かがこんなことを彼女にしたということかい?」


衝撃の事実である。前にも同じようなことがあったという事すら知らなかったし話すからするとそれに気が付いてくれた新一君がこっそりその設定を直してくれていたという事だろうか。しかし私自身まったく覚えのない設定に変わっていたという事は即ちそう言うことになるのかもしれないが、少し判断を下すには早急なような気もする。そう告げたがコナン君には呆れた視線を寄越され「こんな難しい設定、いぶきさん自分で間違えてすること絶対にないよ」と言い切られてしまった。どうやら新一君か蘭ちゃんから私が機械がそこまで得意じゃないことまで聞き及んでいるらしい、なんてこった。


「取り敢えず戻しておいたけど…五日前に誰かに携帯渡したりした?」


「ええ?五日も前だと…うーん…」


「というかいぶきさん、前にも新一兄ちゃんに言われたと思うけど簡単に携帯人に渡したらダメだって」


「あ、うんごめんね」


ささっとその設定とやらを解除してくれたコナン君が携帯を返してくれたので御礼と共に受け取る。見ればメールボックスの通知が大変な事になっていて驚いたが、どうやら解除と共に届いていなかったメールが一気に押し寄せたらしい。基本的に連絡を受けてからそれに返してやり取りをすることが多い性分だったため、自分から送って連絡が返ってこないなどという不自然な事が無かったせいで気が付けなかったが、そう言えば急に返事が来なかった人がいたと慌ててメールを開く。梓ちゃんに蘭ちゃん、新一君に小五郎さんに園子ちゃん、大学の同期に職場の後輩、最近連絡先を交換した真純ちゃんからは続けて何通も届いていて大変申し訳ない思いになった。その中に埋もれるように沖矢さんのメールもあってダメージを喰らう。やってしまった…。


「少し拝見しても?」


「あ、どうぞ」


あー、と頭を抱えていた時に横からそう手を伸ばされたのでぽん、と携帯をそこに乗せると正面から「いぶきさん!」と咎める声をかけられた。コナン君こわい、そんな怒らなくても、いや、はい、ごめんなさい。




 - return - 

投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005