モナーク


ついさっきコナン君に窘められたばかりだというのになんの躊躇いもなく出会って間もない間柄である自分にロックを解除した状態の携帯を渡してくるものだからゾッとするほど危機感がないことが分かった。しかもよりにもよってあの沖矢からのメール画面である。まあそれを見ているのが分かっていてそのタイミングで声をかけたのもあったがこんなあっさりと、しかもダメだよと小学生から注意された直後にこれはないだろうと苦笑を浮かべる仮面の下で苛立ちを隠した。これが安室透に向けての信頼ではないからこそ腹が立つ。まだそうであれば納得もできるしこちらとしても悪い気はしないがこの調子なのだから誰にだってこうして携帯を渡してしまうのだろうことは推理するまでもなく分かる。そしてまんまと手に乗った携帯をコナン君の前で操作するようなこともせず、簡単に人に渡さないかテストをした、という体ですぐに返却する。操作するまでもなく沖矢からのメールは確認できたのだからそれで充分だったし、この賢い少年に勘繰られることもないだろう。メールの内容に怒りを抑えるのに必死になってテーブルの下に隠している拳が痛いくらいだがばれることはないだろう。

そう、沖矢からのメール。懇切丁寧な文面でいぶきが悪くないのだと、逆に庇えなくて申し訳なかったと告げられたその内容は女性からすれば好印象を受けるであろう書き方をされていた。そのうえ、当たり障りなく次の対面を取り付けようという魂胆が散りばめられていて多少その気のある女性が受け取れば簡単に釣れるであろう餌が透けて見えた。まだいぶきの携帯をハッキングするのを辞めたのは時期尚早だったかなんて思えるほどである。
未だにコナン君にお叱りを受けているいぶきはまだその事に気が付いていないのか浮足立った様子は見られないがもしこれでこの後、あのメールを再度読んで頬でも染めたらと思うと殺意が物凄い勢いで噴火しそうだった。想像だけでこの威力だが、実際そうなる確率が高いというのがまた恐ろしく同時に殺意に拍車をかける。
だがまずはそれよりも考えるべきことがある。いぶきの携帯を勝手に弄った馬鹿の事だ。コナン君の話から以前も同じことをされていたようであるし、設定とはいったものの殆どウイルスのようなそれを仕込めるような輩が何人もいるとは思いたくもないので同一犯とみていいだろう。なんとなくだが、動機は分かる。恐らくは独占欲から来るそれだろうが如何せんやり方が乱暴な上に危うさを感じさせる。恐らく犯人は彼女の携帯の中にアドレスが入っている人物だ。ということは自分もろとも連絡を断たせたという事になる。まるで心中にも似た行為に苛立ちが嵩むが奥歯で口内を噛んで誤魔化した。「他の奴とも連絡を取るくらいなら誰とも連絡を取らないでほしい」そんな気持ち悪い声が聞こえた気がして脚の指を丸めてその悪寒を流す。そうしないと脚でテーブルを蹴りあげてしまいそうだった。そんな危ない思考の人間がこいつの携帯を手に出来るような近場にいるなんて何の冗談だ、笑えない。


「因みに以前というのは何時の頃か分かるかい?コナン君」


「一年くらい前って言ってたよ」


「ということは遠隔操作ではなくやはり直接この携帯を操作したんでしょうね」


「僕もそう思う、そうじゃないともっと短いスパンでこうなっているだろうしね」


「だから五日前にってさっき聞いて来たんだね、コナン君」


「あ、あはは〜」


「そして恐らく、犯人は確認のために橘内さんに連絡を送っていると思いますよ。その方法が電話なら折り返しの電話が来なければ、メールなら返信が来なければという具合で確認を取っている筈です」


その言葉に少し顔色を悪くしたいぶきは酷く億劫そうにして届いているメールをまた改め始めた。



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投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005