モナーク



「それにしても橘内さんは噂の工藤君とそんなに仲がいいんですね」


「そうですかね?そうはいってももう随分と会っていませんし…」


「高校生の男の子と連絡を取り合っているというだけで仲はいいと思いますよ?」


言われてみれば確かにそうかもしれないな、と思ってしまった。年齢で言うと丁度十も違う年下の子と親戚でもないのに連絡を取り合っているというのは確かに珍しいのかもしれない。それは蘭ちゃんにしても園子ちゃんにしても真純ちゃんにしても同じことが言えるが異性で年下の子で連絡先を知っているのはコナン君と新一君くらいだ。コナン君経由で灰原哀ちゃんという、阿笠博士の親戚の子の連絡先も知っているが歳が離れている子で知っているのはそのこだけだしなにより女の子である。少年探偵団の子たちはコナン君だったり哀ちゃんが間接的に連絡をくれるので連絡先の交換までには至っていないし…うん。そう考えれば仲がいいと思われてもなんら可笑しくはない。


「新一君もすごく親切な子で…いろいろ助けてもらったりしてたのでその名残、ですかね」


「そ、そうそう新一兄ちゃんがいぶきさんは危なっかしいからっていっつも言ってたよ!」


「そうなんですね、それにしても高校生探偵と名高い彼にそこまで心配されるということは彼とは探偵と依頼人としてやり取りを?」


「え?新一君とですか?」


探偵として、といわれると頷きかねるのは単に彼と話すと言えばホームズの事が八割であったこともあるし、蘭ちゃんと園子ちゃんを交えて出かけたこともあったからだ。小五郎さんと違って依頼をしたこともない。まあ何度も助けてもらっていたのでそのお礼をしたことは数知れずだが、探偵として新一君になにかお願いしたことはなかった。うーんと考え込む私に黙って答えを待つ二人。コナン君もその話は新一君から聞いていないのかジッと私を見て口を噤んでいる。少し気恥しいがまあ本人に言わない様にコナン君にお願いすればいいかとそう前置きをしてえっと、と言葉を選ぶ。


「新一君はどうおもってるかは分からないんですけど…なんというか、私が勝手に弟がいたらこんな感じなのかなあって…ホームズのこと話すと凄くきらきらした顔して話すんですよ新一君、なんだかそれが可愛くって…あ、本当に新一君には内緒ね、コナン君」


「う、うん」


本当に頼むよと願いながら恥ずかしさを隠すようになんとなく手遊びをしてしまう。こんな内心本人に知れてしまったら居たたまれなくて申し訳なくなる。勿論蘭ちゃんや園子ちゃんの様に「年上のお姉さん」として慕ってくれているのもとてもうれしいが、あの二人はそれなりに私に遠慮するところがあるのだ。だからこそ良い子だなとも思うし可愛いなとも思う。同性で歳が離れているという事もあって尊敬してくれている、んだと思う。多分。けれど新一君はそれよりももう少し近い距離感で接してくれている、と私は感じていた。新一君自身酷く賢く、大人顔負けの頭脳を持っている事もあって話していてあまり歳の差を感じないというのも合ったからかもしれない。図々しいかもしれないがその距離感が弟というカテゴリーに当てはめたらなんとなくしっくりしてしまったので勝手にそう思っていたのだ。本人が知ってしまったらかえって気を使われてしまいそうだから本当に頼むよコナン君。


「そうだったんですね、では本当になにか困ったことがあった時に相談するのは毛利先生だけだった、と」


「まあ、そう、なります…ね?」


そう言われると少し釈然としない部分があるような気もするが間違ってはいないので肯定を示す。小五郎さんも新一君も私がなにか困っているとすかさず気が付いて助けてくれていたので最近は自分から相談を持ち掛けることも無かったのだが、確かに今後なにかあったらと考えた時に真っ先に浮かぶのは小五郎さんだ。


「でしたら、探偵として僕がなにかお手伝いしましょうか?」


だからまさかそんな方向から話を持って来られるとは思ってもおらず、一瞬理解するまでに間が開いてしまった。探偵として、僕が…?ん??と噛み砕いて考えているとお弟子さんは「勿論依頼料はいりませんよ」と笑顔で続ける。その爽やかな笑顔をみて、やっと頭が働いた。


「い、いやいやいやいや!そんな滅相もない!」


なにをおっしゃる!と両手でやめてやめてと拒否を示す。そんなほぼ初対面の、しかも小五郎さんのお弟子さんに迷惑をかけるだなんてとんでもない。小五郎さんと一緒に仕事をして勉強をしているであろうに私なんかに時間を割いていられないだろう。ポアロでもバイトをしているという事は兼業という事になるし多忙を極めるはずだ。そんな人に痴情のもつれで時間を取らせるなんて断固あってはならないことだ。そんな私の反応に困った様に笑みを深めて、しっかりと此方に視線を向けながら言い聞かせるように顔を寄せられて思わず手が止まってしまった。


「ですが毛利先生は橘内さんから依頼が来ないとしても気にかけているようですし…それでしたらいっそ忙しい毛利先生より融通の利く僕の方が、と思ったんですが…やはり僕みたいな若輩者では不安ですか?」


「そ、そう言う訳ではなくてですね」


「それに僕にとっては探偵業の修行も兼ねて、橘内さんのご相談を受けることで勉強できることも多くありますし、これでも以前ボクシングなんかをやっていたので悪漢退治なら自信がありますよ」


「あ、あの」


「勿論僕で対処できない案件だと判断した場合には毛利先生にもすぐ連絡しますし、毛利先生にすぐ連絡を取って相談するよりは僕を挟んだ方が橘内さんとしても気が楽になるんじゃ、なんて思ったんですけど…やっぱりそんなことはないですかね?」


「え、あ、そんなこと、は」


「きっと年齢も近いと思うので友人のような感覚からでも全然大丈夫なので…どうでしょうか?」


「…………おねがいします」


だめだった、完全に流されてしまった。こちらが気負わないようになのか、自分の勉強のためだとか言われてしまっては断りようがなかった。ひとまず連絡先を、と言われたのでその場で交換させてもらった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいで何度も謝ってしまったが、その度にホッと肩の力が抜けてしまうような笑顔で「大丈夫ですよ」「僕がお願いしたんですから」「出来れば仲良くしてくださいね」なんて言われてしまって恐縮しっぱなしである。出来た人だ。


「安室さんってそう言えばいくつなの?いぶきさんと近いって言ってたけど…」


「僕かい?もう29だよ」


「え!?み、みえませんね…」


ありがとうございますと照れたように微笑まれて、こんな29歳がいていいのかと戦慄した。二つ年上か、言われればなるほど年上の余裕さというか包容力まで感じられるのだから私の先入観というものはチョロイらしい。電話帳に新しく登録された「安室透」。安室さんね、安室さん。確認するように口で声を出さずに呟いていたのを本人が気が付いているとは露にも思わず、「今更名前覚えたのかよ嘘だろちゃんと名乗っただろ嘘だろこの顔の名前を一回で覚えないだとお前ホント嘘だろ」と彼が内心で頭を抱えていたというのも知る由もなかった。


「本当に気兼ねなく連絡くださいね、僕自身歳の近い人とこうやってやり取りするの久しぶりで少しワクワクしているんです」


「そ、そんな…あ、沖矢さんからで、電話…!す、すみませんちょっと外します…!」


「いってらっしゃい(冗談は死体偽装だけにしろ赤井!!!!!)」


2017.5.30

 - return - 

投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005