モナリザ

安室さんと連絡先を交換して分かったことは、彼がとても真面目で紳士だという事だ。大変失礼な事に見た目で判断していた所もあって、「歳の近い〜」云々の仲良くして欲しいというのはリップサービスだと思っていた。しかし安室さんは本当に心からそう思っていてくれていたのだとすぐに認識を改めざるを得ないくらい、まめに連絡をくれて、なにかと時間の都合を合わせては親身になってくれた。余りにも私の予定に合わせてくれているので申し訳なく、なるべくポアロに行くようにしたのだがそれでも献身的と言っていいほどに気にかけてくれるので、知り合って早々で無遠慮かと思ったが言ってみた。


「その、安室さんの彼女さんに申し訳ないですし」


「それなら大丈夫ですよ、ここ五年ほど独り身ですから」


物凄く爽やかな笑顔でそう返されてしまったのでそれ以上なにか言えるはずもなくすごすごと彼の優しさに甘えてしまっている。本当に真面目な人だ、探偵業にこんなに真剣に向かい合っているのだからきっと小五郎さんに負けないくらいの探偵に彼はなるだろう。
実際に安室さんは例の着信拒否事件の犯人をすぐに突き止めてしまった。連絡先を交換した翌日、わざわざ私の退社時間に仕事場の前で待っていてくれていた安室さんはその場で私の後輩を詰めるように言い負かし、予め呼んでいたのだという交番のお巡りさんに引き渡した。流れるように素早く全てを終わらせて「お仕事お疲れ様でした」と笑う安室さんはそれはとてもいい笑顔だった。警察に連絡するほどでも、と慌てたが安室さん曰く違法な方法だったことと連犯だったことが災いしたらしい。罰金と前科一犯がつけられ彼は左遷されていった。クビにならなかっただけよかった方だと安室さんは言っていたし上司も同僚も同じことを言っていた。
そういった形で本当にすぐに私のために動いてくれた彼なのだが、この日以来の彼のある行動が私の胃袋を苦しめていた。


『お仕事お疲れ様です、いつもの場所に停めています、もしなのですがbosのブラックが売っていればお願いしてもいいですか?』


もう…申し訳なくて埋まりたい。
天井を仰いで両手で顔を覆いながら罪悪感に似た感情と戦う。最初にあの立派なスポーツカーに乗った日はそれこそ後輩が警察に連れていかれた日だったので、動揺もあって促されるままに安室さんに家まで送ってもらった。しかしその次の日、昨日と同じ場所に停まっていたあの白い車から「やあ」とばかりに手を振られたらそりゃぎょっとするし恐縮してしまう。家まで送るなんていう彼に何度も申し訳ないと伝えたのだが安室さんは「たまたま時間が合ったので」とか「また何かあったらと気になって僕がいてもたってもいられないんです」だとか「折角自慢の車なので人を乗せたいんです」とのらりくらりと笑うばかり。他の依頼もあるだろうに依頼料も請求しないで私なんかに時間を存分に割いてくれているのだから本当に申し訳ない。
せめてもと思って少し高い喫茶店のテイクアウトコーヒーや銘菓子を買ってから車に乗り込むようにしたがあまり快く受け取ってもらえないので更に肩身が狭くなる。
今日も今日とてお迎えに来てくれたらしい安室さん、しかもこちらを気遣って自販機で売っているようなコーヒーをご所望とくればそろそろ私は安室さんに土下座でもしたくなる。
安室さんが見返りを求めて私に良くしてくれている訳ではないというのは分かっているのだ、けれどそうは言ったって安室さんとはつい先日知り合ったばかりで加えて歳上で、小五郎さんのお弟子さんだ。安室さんの言葉を全て鵜呑みにして納得出来るほど私は礼儀を欠くことができない、流石に。
とりあえず今日はコーヒーを三本くらい買っていけばいいだろうか。



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投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005