ポルト
「ねえ安室さん、ちょっといい?」「ん?」
「こっちきて」
この人がいぶきさんの相談役に名乗り出た時から違和感はあった。沖矢さんを探る為だろうなとは思っていたがどうにもそうではないかもしれないとその沖矢さん自身から言われ、今日俺自身もそう感じた。間接的に接触を図る為か探る為の言動ではない、気がしたのだ。寧ろもっと直接的な、そう、いぶきさん自身に対して視点を合わせていると会話を聞きながら思った。だとしたらきっと、安室さんは知っている。知っていていぶきさんを探っているのだと思い至った時に下手に探られるよりもハッキリと事実を提示した方が安全度が格段に上がると判断した。こそこそと怪しまれるよりいぶきさんもずっといいだろうと、善意と安室さんへの信頼から俺は余計なことを言ってしまった。
「安室さん、いぶきさんは組織のこと本当になにも知らないんだ」
「…」
「寧ろ被害者で、ベルモットにも無害だってちゃんと言わせたし組織から何かされることもないから大丈夫だし…」
「…ちょっと待ってくれ、どういうことだい?」
「………ぼく難しいことわかんな〜い!」
なんて誤魔化されてくれるはずもなく、怖いくらい真剣な顔で声を低くされたので冷汗をかいてしまった。やっちまったと顔を歪めたがもう遅い、どうやら本当に何も知らなかったらしい安室さんに充分すぎるほどの情報を与えてしまった時点でこちらの落ち度だ。言わないと勝手に全て調べてしまうだろうしだったら今言っても同じか、と観念して自分の知る事を簡単に伝えた。
「いぶきさんの母親が組織の人間だったんだ、下っ端だったみたいだけど……」
「…は」
「ベルモットから聞いたんだけど、いぶきさんの父親の事を探ってたみたいで……結婚したのも任務だったって」
言外にここまで教えたのだから組織の中でバーボンとして探りを入れるなと伝える。バーボンが組織の中でいぶきさんの事を探っていると他の連中に知られると何が起こるか分からないうえ折角安全であるいぶきさんの現状が危うくなりかねない。本職の方でならいくらでも探ってくれてもいいのが、バーボンではダメだ。だからこそ組織の中にしかないであろう情報を渡した。それを知っているものだと思っていたが知らないということは組織の中でいぶきさんは忘れ去られているということと捉えてもいいだろう。もしもがあったら公安に保護してもらおうという打算もあったけれどそれはオフレコにしても伝わるだろう。
しかしこんなに驚いて表情を崩す安室さんは実家でみて以来だ、どうしたんだと声をかければ呆然としたままにああ、と返されてやっと可笑しいと気がつく。
そういえば、どうしてこのことを知らなかった安室さんがいぶきさんに接近したんだ?その疑問が浮かんで同時にもしかしてとある可能性が浮上する。いや、え?まさか。
「あ、安室さん…もしかして、さ…」
「え?」
「その、いぶきさんのこと、好き、なの?」
唐突にスッと表情を失くした安室さんを見てやっぱり勘違いか、と安心したのだがその耳が真っ赤になっている事に気がついてしまった。どうして俺はそういう所にまで目がいくんだ、探偵だからか。なんてこった。嘘だろと叫ばなかったのは目の前の安室さんが怖かったのもあったし奥で話していたいぶきさんと梓さんが沖矢さんの事を話していたからだ。話すことをやめた俺達の間にその声は聞こえすぎるくらいに鮮明に届く。待ってくれ、状況は最悪だ。二三度体感温度が下がったのは気のせいじゃない。どうしよう赤井さん、知らないうちにまた安室さんから恨み買っていたみたいだよ。過去に赤井さんにいぶきさんの護衛を頼んだ人物を大いに呪った。俺だった。ごめん赤井さん。
投稿日:2017/1005
更新日:2017/1005