箱の中の赤子


あれ、と違和感を感じたのは直ぐだった。何かがいつもと違う、なんだろう。普段通りお昼ご飯を食べるのに机をくっつけて、そこに席の離れている園子が来て。世良ちゃん(いぶきさんがちゃん付けで呼び始めて程なくしてこの呼び方が定着した)が飲み物とお昼を買いに購買に行って……。


「あ!世良ちゃんお弁当になった!」


「え!あ!ホント!あんたホテル住でしょ?なんで?」


違和感の正体を突き止めてすっきりしたと同時、園子の言葉にまた新たな疑問が浮かぶ。確かに、前に一度お邪魔したホテルではキッチンは付いていなかったし明らかにお手製のお弁当は見るからに美味しそうである。あ、いや事件があったからホテルは変えたんだったか。


「世良ちゃんが作ったの?」


「そんな訳ないだろ〜」


「そうよね、見るからに料理できなさそうよね」


な?と失礼な園子の物言いにもなぜか得意げにする世良ちゃんにだとしたら誰が、とその考えを口にする。買ったわけではないだろうそれをジッと見れば卵焼きは綺麗に黄金色をしているし、色合いや栄養のバランスも考えられているのが分かるオカズがぎっしりと詰められていて冷食が一つも入っていないことに驚いた。


「凄いね冷凍食品一つも入っていない」


「え、そうなのか?」


「なんであんたが知らないのよ」


「いやぁ…でもそっか、全部手づくりってことだよな」


ふふ、と笑う彼女はどう見てもご機嫌で平素以上に特徴的な八重歯が覗いている。前から購買でお惣菜パンやら菓子パンしか買ってこなかった世良ちゃんがこうしてお弁当を広げて嬉しそうにしている光景というのは友達としても嬉しいものであるし少しホッとした。聞いたら悪いかとこちらから問いかけることはあまりしないが、彼女の家庭事情が複雑なんだろうことは想像に容易い。亡くなったというお兄さんとも苗字が違うし、同い年なのにホテルに一人暮らし。自身が両親の離婚を経験しているからかあまり聞くものではないと分かっているので深く聞いたことはないけれど大変なのは分かる。


「よかったね、世良ちゃん」


「ん?なにが?」


「お弁当、作ってもらったんだよね?」


それが誰か気になるけれど、まあ彼女がにこにこ笑っているんだからそういうことなんだろう。昔から自分でお弁当を作っていたので正直少し、羨ましいななんて思ってしまったけれど嬉しそうな世良ちゃんを見てこちらまで笑顔になってしまったのだって本心からだ。私のお弁当の思い出といえば、お母さんが作ったものにお父さんが文句を言って喧嘩になった運動会の物が最後だ。あれはあれで、今思えばいい思い出だなぁと思い出しながら自分のお弁当の蓋を開ける。昨日の余り物と冷凍しておいたオカズが詰まったそれを今頃コナン君も開けているのかなと思うと、それで充分かなと思えた。


 - return - 

投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005