天界の裁判

どうせ今日の帰りが遅くなると分かっていたのでいぶきさんに連絡し一緒に買い物をすることになった日。態とお弁当箱を学校に置いていき(勿論昨日ちゃんと洗った)しびれを切らしそうな園子君がそれを見つけるように彼女の席のある方に引っ掻けておいたのだが狙い通り彼女たちは僕の後を付けてきた。スーパーで直接待ち合わせしていたいぶきさんを彼女達から隠すようにして買い物を済ませるのは大変だったがお陰で反応が面白かった。いつの間にかサングラスなんてかけていたので噴き出してしまったがいぶきさんは首を傾げるだけで特になにも聞いてこなかった。今日はタンドリーチキンらしい。
だからという訳ではないけれど、蘭君と園子君以外に視線がこちらに向けられていることに気が付くのが遅かった。いぶきさんから荷物を受け取ったそのとき、ぞわりと背筋に悪寒が走りなんだと振り返ったが誰もおらず(いや隠れ損ねた蘭君はいた)気のせいかと怪訝に思いながらも学生鞄を持たせてと言ってくるいぶきさんにそれを渡す。もうこうして一緒にご飯を食べ始めて三週間は経ったか、それなりにこの人の事は分かってきたつもりであるが相変わらず気の抜けるほけほけした笑い方をするなあと思った。お弁当を持たせ始めてくれたのが一週間くらい前からだから、それなりに一緒に過ごしたなあと思う。心なしかいぶきさんも前以上に僕に甘くなったような気がするし仲良くなったと思う。まあ、満足かなあと思えるくらいには。


「え!いやこれは!違うんです!」


だから後ろでそんな蘭君の声が聞こえて蘭君と園子君がいぶきさんに気が付くよりも先にいぶきさんがあれ、と彼女たちに気が付く方が早くてももうそれを誤魔化そうとは思わなかった。


「あれ?蘭ちゃんと園子ちゃんと安室さん?」


「あ?」


しかし、約一名余計な名前が無ければ、である。思わずガラの悪い声が出てしまった。
いぶきさんに倣って振り返れば確かにあのうさん臭い男が園子君と蘭君の傍に立っていた。スーパーの袋を持っているところを見ると彼もここで買い物をしていたんだろうがどうにも釈然としない。


「おーい、蘭君園子くーん」


「え、あ、ばれた…っていぶきさん!?」


「ハリウッドスターみたいなサングラスだね?どうしたのこれ」


ちょっとずれた感想を述べたいぶきさんにあはは、と笑う二人は良しとしてだ。なんでお前がここにいるんだと目を向ければその視線を受けてうっそりと目を細めてにこりと笑われてぞぞぞ、と背筋に悪寒が走った。まさかさっきのあれ、こいつか?でもなんで、と思う間もなくいぶきさんに向き直った安室さんが「もしや最近スーパーに寄っていたのは彼女と買い物を?」と話しを振ってしまった。サングラスをかけて遊んでいたいぶきさんがそれを外して照れたように肯定を示していてなんでこの男がいぶきさんがスーパーに寄っていることを把握しているんだと顔を顰める。


「もしかして世良ちゃんのお弁当っていぶきさんが?」


「あ、そっか三人ともクラス同じなんだっけ、そうだよ」


「え!?」


「今日はいぶきさん家でご飯の日なんだ〜」


なー、と言えばねーと乗ってくれたいぶきさんに調子に乗って見せびらかすように腕を組んでみれば蘭君と園子君が唖然と言わんばかりに茫然としていて笑えた。くすくすと笑いながら状況を把握したらしいいぶきさんも腕を組んでくれたので大満足である。まさかあのお弁当を作っていたのが自分たちも良く知るこの人だとは思っていなかったようでその反応が見たかったんだよとにやりと笑えば園子君が「隠すことないじゃん!」とぷんぷんと怒った。ちょっとした遊び心みたいなものであるので許してほしい。


「なんだあ、そうだったんだ、納得」


「しかも家でもご飯って…いつから?」


「いつだっけ…」


「まあ一か月くらいかな」


サバを読んだがまあだいたい一か月弱である。嘘ではない。そんなに長くと驚く園子君とやけに納得したような蘭君。そして不気味なほどににこにこと笑ってその場に立っている安室さん。さきほど引っ掛かっていたことを聞いておこうと口を開きかけた時、「蘭ねーちゃーん」とコナン君の声が聞こえそちらを振り返ればパタパタと此方に駆け寄ってくる彼が見えて思わず笑みを浮かべてしまった。


「コナン君!」


「どうしたのこんなところで…」


「そういうガキンチョはどうしたのよ」


「僕博士の家にいった帰りだよ」


コナン君の問いに気まずそうに笑う蘭君。確かに友人の後をつけていたとは言いにくいだろうがこの子になら言っても問題ないだろうに。そう思うも口に出すのは辞めておく。そう言えば今度ある脱出ゲームのことを彼と直接話していなかったなと彼に向かって口を開いた時、いぶきさんの持つ彼女自身の鞄からなにやら不穏な音楽が。全員の会話がぴたりと止まりその有名な音に何事かと目を向く。途端にいぶきさんが顔を真っ赤にして「ごめん…ごめん私の携帯…ごめん電話…でてくるごめんね…」と顔を覆いながらその場から退散したので腹を抱えて笑わせてもらった。




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投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005