天界の裁判

真純ちゃんにお願いすれば快く着信音を変えてくれたので心底ホッとした。あの場で聞かれてしまったのはもう申し訳ないとしか言いようがないが誰の着信音かまでは真純ちゃん以外にはばれていないので首の皮一つつながった想いである。その代り真純ちゃんが沖矢さんの名前を出すと笑い出す呪いにかかったけれど。どうかイベントの前には解けてほしい、でないと沖矢さんの顔を見て笑うなんてことになりそうで居たたまれない。
そんな日の翌々日である。休日であったので午前中に家事を済ませようと洗濯をし掃除機をかけていた時である。ゴー、という音に紛れてチャイムの音。慌てて掃除機を切って玄関に向かえばどうやら宅配便のようでチェーンを外して迎え入れる(チェーンの徹底は安室さんによるアドバイスである)。印鑑を押してそれを受け取るが戸が閉まってチェーンをかけなおした時にその荷物に全く身に覚えがないことに気が付く。なにかを頼んだ覚えもないし誰かからなにか送られてくるような時期でもなく、そんな連絡もない。宛名の書かれた伝票を見るとどうやら何かの会社から送られてきたらしい。株、から始まるその会社名に覚えはなかったが手書きではなく印字されたであろう文字に開けても大丈夫そう、と判断を下す。小五郎さんにも安室さんにも言われていたのだが曰く送り主不明の場合は開けない様に、と注意されていたのだ。段ボールのそれは重いという訳でも無いが長く持っていると腕が痺れそうだなと言うくらいの重さ、大きさは両腕で抱えられるくらい。
ひとまず間違いだといけないと思ったが確かに伝票には私の名があるし、ひとまずは開けてみようとカッターでガムテープに切れ目を入れる。
ぱっと開けてまず飛び込んできたのは一枚の紙。三つ折りになって封筒にも入れられずに入っていたそれを開けば「お世話になっております」から始まる典型的なお礼状。ん?と疑問符が増える。記載されている会社の名前にやはり身に覚えがないというのもあったし、どうやら懸賞が当たったから送られてきたような文面だったのだ。
そんなのに応募なんてしたかな、と中身を改めるとびっしりと緩衝材に埋もれる化粧品やフェイスケアグッズ、見るだけでも楽しい綺麗なガラスに入ったコロンやファブリックミスト。ぎょっとしてそれらを眺め、すぐにそれらがすべて有名ブランドのものだと気が付いた。慌てて一つの商品を手に取ってパソコンで検索をかけてみる。そのブランドのホームページに行き手に持っていた美容液を調べてみるがどうやらおかしい。サイトでは200mlのものしか販売していないのであるが私が手に持つそれは500ml。しかもサイトに載っている値段を見て仰天した。高いのは知っていたが買ったことがなかったので知らなかったがこんなにするのか。それがしかも大容量のものが送られてきた。いったいどういう事だ。他の荷物を見てみたがフェイスケアの商品が基本的に大きいものばかりで、化粧品はサイトに載っているままのものが送られてきている。しかも最新の限定品まで見つけてしまって慌てて包みなおした。な、なにこれ、どうしよう。とにかく推定数十万円相当のこの段ボールをどうしたらいいのか私には分からず、そっと蓋を閉めておくことしか出来なかった。
その後に近くの銀行のATMからお金を引き下ろすのと同時に買い物をしようと出かけたのだがこのATMでまた不可解な事が。久しぶりに通帳に記載をしようとカードではなく通帳での引き落としだったのだが。


「(さんじゅうまんえんふえてる)」


なにこれ再びである。あまり普段から残高を気にしてはいないが給料日でもないのにそれだけ増えれば流石に気が付く。しかも普段使いのこの口座は他所から入金があるような口座ではないのだ。それなのにどう言う訳か昨日の正午にどこからかお金が振り込まれている。
私の身に何が起こっているのだと戦々恐々としながら、しかし誰に言えばいいのか分からず結局お金を引き出すことなく帰宅。あ、買い物もしなかった。と帰ってから気が付いたがそれどころではない。今日が平日ならば銀行員の人に聞けたのだが生憎の休日でATMコーナーしか開いていなかったので月曜日に改めて、と思ったが私が会社に行かねばならないし銀行がやってい時間に行くことは難しい。お金が勝手に減っていたのならば私の思い違いかなで済むが増えているのはどう考えても可笑しいしあり得ない。昨日ATMにも行っていないのだから間違いない。通帳をもう一度眺めるがどう見ても増えているし昨日の正午に振り込まれているのは間違いない、なんで?
すっかり困ってしまって床に座ってソファーに上体を預けてぐったりとしていたのだが、ぴりり、と携帯が着信を知らせてハッと体を起こした。手元にあった鞄を引き寄せて名前を確認すれば「安室さん」の文字。そうだ、彼に聞いてみよう。普段からお世話になっているだとかこれ以上迷惑はだとかそんなことを考えられないくらいに困っていたらしい私は藁にもすがる思いでその着信を取った。




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投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005