討たれしその子

蘭とおっちゃんがそれぞれの予定で家を空けるという事で博士の家に泊まりに行くと言って実家へと帰ってきた俺は、そういえば最近きちんと昴さんと話せていなかったなと近状を聞くために彼に声をかけた。灰原も今日は博士と家にいるだろうし特に出かけるという予定もない筈なのでそう言った意味でも時間は丁度あったのだ。同じく昴さんの方も学校周辺での様子や、俺でしか目のいかない部分を聞きたかったらしくそうやって情報交換をし、ある程度落ち着いた時にそう言えばとふと思い出して聞いてしまった。


「そういえばいぶきさんのことまで頼んでたのにごめんね」


「なにがだ?」


「いや…ほら、安室さんに余計に睨まれてないかなって」


「ああ」


そのことか、と笑う昴さんは一度前傾させていた姿勢をソファーに預けて体を伸ばした。どうやら気を張らなくてもいい話として昴さんの中でカテゴライズされているらしいが、俺としてはいぶきさんの口から昴さんの名前がでるだけで地雷原を踏み抜いているような気分にさせられるのでちっとも気楽になれない。言わずもがな安室地雷である。むしろ当事者の昴さんがこんなに悠々としている方がおかしいのだ、この前の時なんて安室さんが思いっきり舌打ちしていたのを俺は聞いたしなんなら一瞬真顔になっているところまで見てしまっている。物凄い怖かった。


「昨日偶然彼女と買い物をしている時に安室君に会ってな」


「待っていぶきさんと買い物行ったの?え?なんで?」


「誘われたからな」


誘われたからって行くのかよ。そう思ったがグッと耐えて口には出さなかった。分かってるんだよな、この人分かっててやってるんだよな、質悪い。
昴さん曰く、前にいぶきさんに服が火事と共になくなってしまった話をし、最近困っているというような話をしたそうだ。するといぶきさんがお礼になるかは分からないがと前置きをし、買い物に付き合おうかと誘ったらしい。それに二つ返事で了承をし、昨日がその日だったと。


「本当になんでいったの」


「…真純の事もあったからな、彼女の好みでも把握してなにか送ろうと思ったのが三割」


「残り七割は?」


「面白そうだったからな」


やっぱりかよと頭を抱えて悶絶してしまう俺を見てはは、と笑う昴さんが憎い。肝が据わりすぎている。組織に潜入していたせいで思考回路の一部が麻痺しているに違いない、そうじゃないとこの家であんなにも険悪になっていた安室さん相手にこんなおちょくるような真似できないだろう。
しかしそれ以上の気がかりである、安室さんに遭遇したという件。余りに出来過ぎた偶然である。それを目線で訴えればあっさりと「彼女の携帯がハッキングされていたからな」とかえってきて耐えられなくなってソファーに突っ伏した。組織にいるとみんなこうなるんだろうか。呼吸をするように隣の家を盗聴し、灰原の携帯をハッキングしている目の前の人の日常を思い出して頭が痛くなった。いや、俺もやるけれど日常までは流石に覗かないしそういったモラルは守る。二人の場合は状況が特殊なのもあるけれどそんな当然とばかりにしているとちょっと反応に困るからやめてほしい。


「凄まじい形相でな、思わずバーボンと呼びそうになった」


「やめてね?」


というよりいぶきさんだ、どうしてこうもあの人はこんなことになっているんだろうか。しっかりしている大人なのに何処か自分の事に無頓着で目が離せない危なっかしい人、だから安室さんがいぶきさんの周囲を警戒してくれると申し出てくれた時は純粋に安心したし任せられるとホッとしていたのだ。それが蓋を開ければこれだ、最初は組織絡みで探っているのかと思い牽制をかけ、もしや沖矢昴という人間を探るためにとも懸念したが結局はそうでもなく。未だにあの真っ赤に染まっていた耳を思い出しては苦虫を噛み潰してしまったような顔になる。
だが出会って間もないいぶきさんにどうして安室さんがという疑問が浮かび、いぶきさんにそれとなく以前安室さんにあったことがあるかと聞いた。しかし返答は「ポアロで初めて会ったよ」と予想とずれたもの、まさか安室さんが一目惚れなんてするわけもないよなと疑問符が増えた形で今も燻っている謎なのだが、本当に今まで面識はないのだろうか。安室さんが一方的にいぶきさんを知っていたのならそれは探りようがないため(あの様子の安室さんに聞いたとしても答えてくれないだろう)、できれば他にとっかかりがあれば、と念の為目の前の人にも疑問をぶつけた。


「赤井さんはどうしてだと思う?」


「何がだ?」


俺の知らないバーボンとしての安室さんを知っている赤井さんなら思い当たる節があるかと問いかければ一つ間を置いて、ふっと笑った彼はゾッとするくらいに淡々とした声で、しかし楽しそうに笑顔を作った。


「知らないうちに彼女が安室君を口説いたんだろう」


「やめてよ」


「正直俺もグッときた」


「冗談やめてよ!僕の為にも!」


この人はこんな調子で冗談を言うから本当に心臓に悪い。アメリカンジョークってか、笑えない。もうちょっとそれらしく言ってくれ。




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投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005