討たれしその子

「え?また沖矢さんと出かけるの?」


夕飯の春巻を口へ運ぼうとしていた真純ちゃんがピタリと動きを止め嫌そうに端正な顔を歪めた。あまりの表情の変わりように少し面白くなってしまって笑えば不貞腐れたようにバリバリと春巻を食べ始めてしまったのでごめんねと謝って自分も食事を始めた。それでも律儀に美味しいと伝えてくれるんだから真純ちゃんの素直で優しい美点が微笑ましく思えてならない。いい子だなぁ本当に。三人兄弟の末っ子と聞いているけれどしっかりしているし下に兄弟がいると言われても納得出来るくらいに気配りも出来る子だ。


「それで?先週も2回出かけて今週もまた?今度はどこに行くのさ」


「水族館に…」


「はぁ?!完全にデートじゃん!」


本当に行くの?と苦い顔をする真純ちゃんはあのイベントの終わったあとすぐに「僕沖矢さん嫌いだからあんまり応援しない」とバッサリと明言してくれていた。清々しい程にはっきりと言われたので笑ってしまったくらいだ。いくらでも誤魔化して嘘もつけただろうにそうして正直に本音を言ってくれたのが嬉しくて、居心地がいいなぁとそう思ってしまった。


「最初がショッピングだろ?その後がドライブ、どんどんそれらしくなってきたと言うか…」


「んー…でも話の流れで決まった感じだから」


ショッピングの時は車の臭い消しを買った時にドライブでもという話になり(元々沖矢さんが横浜に用があったのでそれについて行っただけである)、ドライブの時は偶然前を走っていたトラックが水族館の宣伝をしていたからだ。そう伝えたが余計に嫌そうな顔にさせてしまったので苦笑しつつ話を変えようと思ったのだが、そういえばと気になることを思い出してしまった。もしゃもしゃとサラダを齧っていた真純ちゃんに倣ってサラダを口に運びながらどう話せばわかりやすいかと話を組み立てる。


「凄い偶然なんだけどね、2回とも安室さんに会ったの」


「……は?」


あれ、失敗した。途端に顔を歪めてしまった真純ちゃんにそういえば安室さんのことも苦手そうだったと思い出してあちゃー、と内心で頭を叩いた。どうも真純ちゃん相手だと気が緩んでしまうのかここの所こういう事が多い。本当に申し訳ない。それでもどういうこと?と聞く姿勢をとってくれた真純ちゃんに明日のお弁当は気合を入れようと決意して口を開いた。


「ショッピングの時は丁度夕飯どこで食べるか迷ってた時で…たまたま安室さんにも会ってその後3人でご飯食べて」


「え?その面子で食べたの?」


「ドライブの時は飲み物買うのにコンビニに寄ったらそこに安室さんがいて、暫く同じ方向に並走して走って…」


「なにそれこわ」


あのさぁ、と箸を置いた真純ちゃんの纏う空気がどうにも怒っているように感じ、慌てて姿勢を正せば懇々と諭すように、いかにその状況が可笑しいかを説明された。ショッピングモールで会ったにしてもあの広い場所で偶然居合わせるのは確率的に可笑しい、ドライブなんてどう考えたって可笑しい所しかない、偶然コンビニで居合わせるにしても都内にいくつコンビニがあると思っているのだと。進行方向が暫く同じだったというのも不自然過ぎであるし明らかに尾行されていると。


「いぶきさんはもうちょっと警戒心とか…もっと人の事疑おうよ」


「ええ…?でも」


「どう考えたって好意を持っての行動だよ」


しかしその言葉に途端に思考回路が停止してしまい、数分ほど私は全く微動だにしなかったらしいというのを後に真純ちゃんから聞くことになる。



2017.7.31

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投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005