屍を慈しむ

「お仕事お疲れ様です」


「、ありがとうございます」


よそよそしい。どうも最近いぶきに距離を取られていると確信して三日経ったが日に日に酷くなっている気がする。由々しき事態に三日前から脳内会議を行っている訳であるがどうも原因が突き止められずにいた。なんだ、なにかしただろうかと車を発進させながら色々と思い出してはこれではないと選別するもそもそもあまり会えてもいなかったのだから理由らしいものがヒットしなかった。特に理由もなしにこんな態度を人にとる性格ではないことはよく知っているので余計に引っ掛かる。なんだ、それじゃあなんでだと横目でいぶきを盗み見るとぼんやりと前方を見ており、どこか元気に欠けているようで落ち込んでいるようにも思えた。いや、恐らくは俺だから気が付いた変化なので周囲から見れば彼女は平素通りであるし、特に何ら変わらない関係を俺といぶきは保っている様に映るのだろうが。それくらい些細な変化ではあったがその些事を放置しておけばいいことが無いと俺の勘が言っていた。
あれか、沖矢とのデートを悉く邪魔したからか。いやでも水族館に行かせてしまったんだからそれでもう十分だろう、なんだ水族館ってなんでそこをチョイスしたとあの時俺は混乱のあまりその水族館のメインシステムにハッキングを仕掛けたくらいだ。ぎりぎりで踏みとどまったが。俺とだって行ったことが無いのに赤井と水族館にいったという事実がぐさぐさ来てしまい心の中で“あいつ”に何度も発砲許可を求めた。もういいだろうと、俺は我慢したんだと訴えればあいつは菩薩の如く微笑んで許しを出したが、しかし俺の理性が簡単にそれを却下した。
そもそもここまで邪魔をする必要など無いのではないのだろうか。いずれあの沖矢と言う人間は遅かれ早かれ消える運命にある。そんな奴相手にそこまで躍起にならずともいいのではないかと。いやしかしいぶきの事を思えばまた急に人がいなくなるなんて状態をもう味合せたくないのもあったし、いつになるのかもわからない先の事を気長に見ていられるほど俺は気が長くなかったようで沖矢からのメールをいぶきの携帯がキャッチすると同時にそのメールを即座に抹消していた。いっそ反射だ、骨髄反射。脳で考える前に勝手に体が動くんだからしょうがない、これは防衛反応だ。


「……なにかありましたか?」


「え?」


「…いえ、元気がないように見えたので……」


日常に男絡みで面倒事は頻発しているが、こいつに気取られないように処理しているしもし気が付いたとしてもこいつもそれでここまで落ち込まないだろう。でないと今頃廃人だ、その当たりの神経は図太いので安心している。むしろもう少し気にしろと思うくらいのレベルだ。
俺の声に一瞬驚いたかのように肩を跳ねさせたいぶきにちょっとだけメンタルに罅が入った音がした、なんでビビる。


「そうですか?ちょっと疲れ気味なのかもしれないです」


そして思いっきりはぐらかされてしまった。こいつは俺への精神攻撃において天才的な才能を持っていると思う。三十路の男を凹ませて楽しいのかこいつは。どんよりと重たい空気のまま走る車内の中で会話は特に生まれるはずもなく、嫌味なくらいの晴天がボンネットに反射して目を細めて前を見るくらいしかすることが無かった。それでも、それなのに別に居心地が悪い訳ではないのだからいぶきの持つ空気や甘さを知っている俺はもうその深みから抜け出す気はないのだろう。



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投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005