トロイアの攻防
夕飯を机に並べ、食べ始めてすぐに彼女に話題を振って今までの話を聞いた。二三回箸を折りかけたが彼女とセットで買った箸を折れるはずもなく気合で乗り切った。久しぶりに聞くとやはり面白くない話ばかりだったしこいつの危うさが飛びぬけてやばいのが分かって改めて俺が何とかしてやらないとという想いが強くなった。聞きたくないなぁという想いが強くなってきていたがそれでも何とか口にしたのは以前ポアロで聞いた話、降谷零に繋がる話だった。「それじゃあ、一番貴女を傷つけたのはどんな男でした?」
「傷つけたですか?」
うーん、と箸を唇に当てて空を見上げるいぶき。時折その箸をぐ、ぐ、と唇に押し付けるのをやめてほしい、目が行く。そして狙い通り、彼女は居なくなった男の話をぽつぽつと告げる。一言一言がぶすぶすと刺さるように罪悪感を駆り立てるが顔には出さなかった。代わりに真顔になっていたと思うがいぶきが気が付いていないのでいいだろう。
「その男は普段はどんな人だったんです?」
「え?聞きたいんですか?」
「ええ、いぶきさんが結婚まで考えたのはその人が最初なんでしょう?参考までに」
参考と言う言葉にポッと頬を赤らめてくれたいぶきに少しだけメンタルを回復しながら心構えをする。ああやだな、もう風呂に入って寝たいというのが本音だ。正直正面からこいつに俺がした行動が一番つらかったと言われるのが心に来た。そしてその男が目の前にいて話を聞いているのに当たり前の様に気が付かないいぶき、お前は本当に期待を裏切らないな。これくらいじゃ気が付かないだろうと思ってはいたが本当に気が付かないとは。
「例えばそうですね、普段とか…どこに出かけたとか」
「んー…普段は割とドライな方だったかな、今思えば……好きって言われたことも無いですし外で手を繋いだりってことも、というか一緒に出掛けたことなかったかもしれないです」
「ッブ」
わ。と突然噴き出した俺に慌てて箱ティッシュを差し出してくるいぶきに礼を言いつつ内心では混乱していた。え?いやいやいや。そんなことはないだろうというか今降谷の話していたよな?俺の話だよなこれ。ぐるぐると回りそうになる思考を何とか整え、過去の記憶を掘り返す。告白は俺からしたはずだ、その時好きぐらい言っているだろうし同棲までしてたんだから何度か言っているだろう。手も繋いだ、よな?と考えて考えて、確かにどちらもなかったという結論に至って今度はコップをひっくり返した。わわ。とキッチンに布巾を取りに行ったいぶきにまた礼を言いつつ落ち着け落ち着けとばくばく言い始めた心臓を上から押さえつける。一緒に出掛けられなかったのはあれだ、もう当時は公安に属していたから念の為を思ってだ。それはしょうがないという事にしてほしい。どうぞ、と粗方机を拭いた後に新しく水を入れてくれるまでいぶきにやらせてしまって今度は謝る。ホントすまん。
「…随分、ドライな方ですね」
「え?ああ、その人ですか?」
「ええ、因みに他になにか覚えていることってあります?」
「覚えていること…あ」
今度はなにもひっくり返さないように箸をおいて両手を膝の上に置いた。まるで面接の時のような姿勢であるがこうでもしないと少し暴れたくなりそうだったので膝を押さえつけながら立たないようにと念じていぶきの言葉を待った。
「潔癖、だったかもしれないです」
「綺麗好きだったんですか?」
「それもあるんですけど、私が作ったもの食べてもらったことなくって」
「…」
「あと彼の部屋にも入ったことなくって」
「………」
「一度彼が携帯を部屋に持っていき忘れたことがあって、持っていったんですけど触ったらダメだったみたいですごく怒らせてしまった事とかあって…今思えば潔癖だったのかなと」
新一君以上に容赦がない、もうやめてほしい。
投稿日:2017/1005
更新日:2017/1005