めでたし、海の星
送られてきたデザイン案を全てテーブルに並べ一つずつ吟味していくがどうもこちらの思う形のものが一つも無くて、これなら以前出されたものの方が良かったなとすぐにそれを封筒にしまった。個人的にはストレートが良いかと思ったのだが、理由を考えた時に「仕事の邪魔にならない」というそれだったのでこんな大切なものまで仕事ありきで考えたくなくて却下。加えてストレートだと存在感が他と比べてどうしても薄くなる、それでは意味がない。かといって幅広のものだといぶきに似合わないのでこれも却下。あいつの細い指に少し無骨すぎるのは品が無い。エタニティーも同じような理由で却下、あまりゴテゴテしている物は存在感はあるが、日常生活に向かないしいぶきの事だから傷を付けそうだとか言って外してしまいそうだ。意味がなさすぎる。よって必然的にチャネル、パヴェ、バー、プロングも無しだ。そうなってくるとウェーブやV字の物になってくるのだがこれが千差万別。少し角度が違うだけで印象も変わってくるし色味やダイヤ、捻りなど要素が多くある為決めかねていた。ソファーに首を預け、ため息を吐いて左手を証明に透かすように掲げてそこにいぶきとペアの指輪が嵌ることを思えばなんてことない自分の指でもなんだか特別に思えてくるから単純である。指輪、勿論結婚指輪の事である。ここ五ヶ月ほど、店を何度も変えながら長いこと検討しているのだがこれがなかなか思い通りのものに出会えずにいた。それでも一切妥協したくないのもあってそこまで苦には思っていないが少しだけ悩んでいるのも事実である。そもそも婚約指輪を渡していないことが問題だった。それを飛ばしていきなり結婚指輪を渡そうとしているせいで、迷ってしまっているのだ。
婚約指輪であれば多少派手だろうがゴテゴテしていようが問題はない、むしろこれでもかと金をかけてあの指を飾ってやってもいい。しかし立場上結婚式など出来るはずもなく、出来るとしても内々で小さく祝う程度。それにそんな見るからに高い指輪をつける機会もないのに買えばいぶきが恐縮するのが目に見えて浮かんでしまって、上司や既婚者の同僚から説得と言う名の言いくるめを受け、そこを妥協してしまった。だからこそ結婚指輪にとことんこだわりたい。そのせいでもう五ヶ月も経っているのだが最近ではどこで聞きつけたのか公安の俺のデスクに指輪のブランド店のパンフレットが重なっていることが増えた。もう持っている物ばかりだったのでただの迷惑だったが気持ちだけは受け取った。因みに風見が進めてきたデザインはハートマークが掘られた若々しいものだったので即斬り捨ててやった、俺たちをいくつだと思っているんだあいつは。ついでにお前にそのデザインは似合わないからやめておいた方が良いと思ったが優しい俺はなにも言わずに置いてやった、顔に似合わずああいうもろな感じが好きらしい。
最終候補として残っているのは三つ。南天をイメージして作られたカーブが独特のもの。女性用の方は南天の実を小ぶりの三つのピンクダイヤで表現しており、リングの色もシルバーだけでなくブロンドも上手く使われていて品もいい。男性側の方は南天の葉をイメージしているらしく女性の物と比べて太目で存在感がある。太目といっても独特な作りの為細さが場所によって違うのでそこまでゴツイ印象は受けないだろう。難(南)を転(天)じて、福と成すという南天自体の意味合いとしても悪くはないのだが、これが予算よりも大分安価なため決めかねてしまった。あと二十万は出したい。
二つ目は蛍をイメージしたシンプルな物。通常よりも濃い色のリングが緩くカーブを描き、中央で一度ねじりが入りそこに淡くイエローとグリーンが入ったバイカラーの珍しいダイヤ。成程夜に輝く蛍をイメージしているだけあるデザインでいぶきに似合いそうなものだった。だがこれが男性側のデザインが斬新過ぎてペアリングに見えないのが問題だった。幅広で打ち付けて作ったような表面をしたそれは個人的には嫌いではなかったがペアに見えないのは大問題だ。
三つ目。天の川をイメージしたリング。基本はストレートなのだが中央部分で綺麗にウェーブがきて、そこにダイヤが七つ並んでいる物である。ダイヤは透明度が最高度のもので輝きも一番。細くシンプルではあったがそこまで主張するほどの大きさではないのでこれくらいなら、と思われるギリギリの塩梅で値段も予算の程度。ペアにもしっかり見えるし最有力候補であるが、ダイヤが七つと言うところでいぶきが渋る可能性がある為保留。
因みにすべて違う店なのでダイヤだけ変えてくれとは流石に注文できないでいるという現状である。すっかり頭に情報としてインプットされているその三つのデザインを思い浮かべながら、やはりこの中から選ぶのがいいかと天井のLEDを薄目に眺めながら思う。この三つの候補が出てきてから実は二か月経っている。悩み過ぎだと言ってくれるな、ここで真剣に悩まずにいつ悩めと言うのだ。徐に背中を預けていたソファーから体を起こし、前傾になって肺の中の空気を全て吐き出す勢いで大きく息を吐いた。
もう婚姻届けも俺がかける部分は全て書いた、いぶきの後見人には毛利探偵に頼み倒してなってもらってサインももう貰っている。あとはあいつに書いてもらうよう、頼むだけだ。降谷であると明かしたと同時に職業についてもばらしたので便宜上あいつは俺の親族となっているが、あの時のなあなあなものではなくしっかりといぶきに伝えるべく、こうして長いこと計画を練っているのである。
そう、一世一代のプロポーズなんだから、妥協なんて一切する余裕がない。非常に恰好が付かないがそれが本音である。
投稿日:2017/1005
更新日:2017/1005