センブリッジ
もうお腹いっぱいだと言うくらい蘭さんは沖矢といぶきのことを話してくれた。もう2人は付き合っているのではと錯覚しそうになったから恐ろしい、間違いなく胃が荒れたので今日は胃に優しいものを腹に入れようと考えながら、未だにコナン君が帰ってこないことに気が行く。隣の家の阿笠邸に行っているのならいいのだがまだ工藤邸にいるとなるといぶきもあいつといる可能性が高い。あの品のいいティーカップでもてなされていると思うと虫唾が走るがコナン君も交えてなら、まあ許容できる。流石にこれ以上聞き出すのも難しいし、なにより下手に突っついてこれ以上沖矢の話を聴ける気がしない。
コナン君が戻ってきた時に蘭さんがまだここにいれば自然と話しは聞けるだろうし後日梓さん経由でも聞ける。そんなふうに笑顔で相槌を打ちながら蘭さんの話を上手く聞き流していたから、来客に気がつくのに遅れた。
「いぶきちゃん?!どうしたそれ!!」
「ええ?!け、怪我したんですか?!」
「いやぁ〜」
「いやぁ〜、じゃないよいぶきさん…」
コナン君に手を引かれて来店したのはどうしてか顔にガーゼを貼り付けたいぶきだった。呆れたようにコナン君が窘めているが女が顔にそんなものを貼るような状況になるなんてどういうことだ本当に、いやぁじゃないなに呑気に笑ってるんだと思わずにはいられなかった。なんて内心では荒れながらも表面の皮は適度に心配そうなそれを形作っていた。まだ彼女とはたった二回しか会っていない、そんな仲なのだから当たり前だ。水や御絞りを準備しつつ耳を傾ければどうやら以前いぶきと付き合っていた男が、未練を消せずにいた事が根幹の原因らしい。たまたまそんな彼女を見つけたのにも関わらず、彼女は男の家に嬉しそうに入っていった。逆上して出待ちをしていた男に襲われたというのが大体の筋だったがどうしてそんな事になるような男と過去に関係を持ったのか根を詰めて話したい。
「でもいぶきさん、沖矢さんのとこ庇うからこんな怪我しちゃったんだ」
「待て待て、じゃあ襲われたのはその沖矢ってやつでそれをいぶきちゃんが庇ったのか?」
「咄嗟に…」
「前から言ってるけどねいぶきちゃん、どうしてそう危ないことしちゃうの」
「すみません」
三人に囲まれてお説教を受けているいぶきを横目に、思わず握力で割ってしまったマグカップの取手をそっと処理する。沖矢を庇った?あの赤井を?そして赤井はなぜ無様に庇われてるんだ腑抜けか奴は。
そういった感情を噛み砕いて押し殺してやっと落ち着いてもまだ毛利親子とコナン君は言い足りないらしく、グチグチといぶきは叱られていた。そこに自分がどうしようもなく部外者であること、駆け寄って心配をかけることすら許されないことに酷い孤独を覚える。今更こんな感情が湧くだなんて案外俺も若いらしい、情けない。その未熟さを嘆くと同時にどうにかそこに割り込みたいと考えている自分がいるのも事実だった。
だってそうだろう、折角自分から、組織から切り離したのに結局は組織の事を嗅ぎ回っている少年とも知り合いになっているし、組織から一度狙われた毛利探偵とも面識があった。どうしてかベルモットが気にかけている蘭さんともこれだけ仲がいい。
とどめに沖矢だ、あいつがよくて安室透が遠慮する意味が心底分からなかった。だから、その気持ちに従ったのだ。
投稿日:2017/1005
更新日:2017/1005