センブリッジ
「まあまあ、確かに女性がそんな危険を犯すことは褒められませんけどそれによって沖矢さんは怪我をせずに済んだんでしょう?」
「そうかもしれませんけど…」
「とりあえず本人も反省しているようですし、ね?」
そういいながら注文していないアイスティーを目の前に置かれ、不思議に思って顔を上げれば先日会った小五郎さんのお弟子さん。見事なウィンクと共に「サービスです」とまで言われてしまい申し訳なさに断ろうと口を開くも、その前に彼は小五郎さんに話しかけてしまった。後でちゃんと払おう。
「それにしても毛利先生は昔からのお得意様を大切にされているんですね」
「そりゃ探偵としてはそういうことの積み重ねが大事だろうがいぶきちゃんはまたちょっと客とは違う括りだな」
「というと?」
「もう随分依頼は受けてないしな、なあいぶきちゃん」
「…そうでしたっけ」
普段から何かと助けてもらっているので首を傾げて考えてみたが、言われてみれば依頼という形ではなかったかもしれないと思い至る。依頼料を請求してくれないので菓子折りやらお酒やらで返していたな、と気が付きもう完全に小五郎さんの善意でしかない、と頭を抱えたくなったが未だにプンプンと怒っている蘭ちゃんの手前なんとか耐えた。
「さっきも言ったが4年も付き合ってるともう客なんて水臭いのもなぁ」
そういって目を細める小五郎さんが少し苦い顔をしたので疑問に思ったが蘭ちゃんが同意する様にプンプンしながら頷いているのをみて気持ちが逸れてしまった、蘭ちゃん可愛い。折角入れてもらったのでと氷で薄くなる前にストローに口を付けて紅茶を吸い上げる。うん、美味しい。気がついていなかったが喉が乾いていたらしくすぅ、と流れていく水分が心地よかった。ほっと息をつき、先程他人様を巻き込んでしまったという事実を噛み締める。それも先日にもお世話になった人に、お礼のためにと赴いた先でだ。そのまま沖矢さんの車で病院まで運ばれ、ここまで送ってもらうという体たらく、控えめに言っても消えたい。殴られてすぐは混乱していたせいでここまで考えられなかったが病院についた当たりから内心ではベコベコに凹んでいた。
「コナン君もまたごめんね」
「へ?」
ムッツリとして怒っていますと言わんばかりの顔をしていたコナン君に小さく謝る。沖矢さんにここに送ってもらったのは小五郎と蘭ちゃんに謝る為でもあったのだ。優しい2人なので真っ先に私の心配をしてくれたが、本当なら怒鳴られたっておかしくはないと思う。預かっている子供の側で警察沙汰の痴情のもつれなんて情けなくて泣けてくる。けれどそんな自分の情けなさを表面化する事も狡い気がして、ハッキリとした声で謝って頭を下げた。
「小五郎さん、コナン君を巻き込んでしまってすみませんでした」
「わーー?!?やめていぶきさん僕何ともないから大丈夫だから!!」
隣に座っていたコナン君がバーンと机に手をついて立ち上がった。本当なら靴を穿いたまま椅子の上にたったらダメだよ注意したいがそれ以上に姿勢を崩すことが躊躇われた。蘭ちゃんまでワタワタとしているようで慌てた声が聞こえて、これは小五郎さんと二人の時にするべき謝罪だったな、と反省し頭をあげた。後で改めてきちんと謝ろうと思っているとふぅー、と息を吐いた小五郎さんがあのよぉ、と呆れたように声を漏らした。
「こいつの心配なんてミジンコ一匹分もいらねーの、殺人現場でウロチョロする様なガキンチョだぞ??いぶきちゃんのそういう真面目な所はいい所だけど変な気遣いは無用!」
「そう!僕もっと怖いこといっぱいあったからあんなのヘッチャラだよ!」
「それもどうなのコナン君…」
これ以上の謝罪は受け取ってもらえないだろうと空気に合わせて苦笑すれば蘭ちゃんがあからさまに肩の力を抜いていたので悪いことをしてしまったな、とまた反省事項が増えた。あははー、と誤魔化すように笑っているコナン君にもう一度ごめんねと小声で謝って切り替えるようにここのお代を出させてもらうように告げた。
会計の時に当たり前のようにアイスティーの値段が入っていなかったので少し店員さんと押し問答になったのは余談である。
投稿日:2017/1005
更新日:2017/1005