センブリッジ
梓ちゃんが早番あがりでその後ご飯でもと誘われたので、その時間の少し前にポアロで待っていた時に蘭ちゃんと園子ちゃんが来店した。どうやら試験間近らしく入店早々に「いぶきさん勉強教えて!」と駆け寄ってきた園子ちゃんに梓ちゃんがあがるまでの少しの時間なら、と頷けば二人の影になっていた後ろから、あ!と声が上がった。
「ああ!噂のいぶきさんってこの人か!」
そういって嬉しそうに笑う彼女は世良真純ちゃんというらしく会えて嬉しいよ〜、とそれこそこちらが嬉しくなる言葉をくれたのだ。しかし噂とは、と内心で疑問に思っていると顔に出ていたのか「蘭君と園子君に聞いてたんだ」と言葉を続けてくれた。一体何を話していたんだと冗談交じりに責める目を向ければそれが分かったのか園子ちゃんが「色々ね」と語尾にハートが付きそうなくらい茶目っ気たっぷりに誤魔化してきたので、可愛いから許した。
カウンターに一人で座っていたのだが流れるようにテーブル席に移動させられ、表面上勉強を始められるようにノートや教科書を開き始めた彼女達だったが、そわそわとこちらを気にしている初対面の彼女は話したいという空気を全面に出してくれていた。なんだろうこの子凄く可愛い。正面に座っていた彼女に勉強の邪魔になることを承知で声をかけた。多分梓ちゃんの事だから勉強を見てあげるとなったら一時間二時間普通に付き合ってくれるだろう。晩御飯にはまだ時間もはやいし。
「真純ちゃんって呼んでもいい?」
「う、うん、僕もいぶきさんって呼んでもいい?」
「いいよいいよ、よろしくね」
「なんか新鮮ね、世良さんがちゃん付けって」
「確かにそうかも」
「え?なんで?」
心底不思議でつい問いかければ、真純ちゃん自身も私の呼び方に戸惑うくらいには久しぶりに呼ばれたなんて言うものだからもしかして嫌なのかと思えばそうではないらしく安心した。
なんでも一人称に僕を使っていることとショートヘアなこと、体型や私服のボーイッシュさが原因で男の子に間違えられることが多いらしい。そう言われれば真純ちゃんが制服でなかったら私もどちらか迷ったかも、なんて思ったが蘭ちゃんと園子ちゃんの友達としてこうして会っていたら気がつけたかもとボヤいてしまった。
「え?どうしてですか?」
「ほら、蘭ちゃんは男の子の友達と放課後そんなに遊ばないし…それこそ新一くんと瑛介くんくらいじゃない?園子ちゃんは真純ちゃんくらい綺麗な顔してる男の子相手だったらもっとこう、ね?」
「いぶきさんの中の私の認識酷くない?!」
「いや納得しちゃったよ私」
「蘭まで!」
「うそうそ、でも園子ちゃんって同じ学校の男の子には厳しいでしょ?」
そういえば少し照れたように頬を赤くして私のアイスティーを勝手に飲み始めたのでどうやら納得してくれたらしい。集まる視線を振り払うようにぶんぶん首を振った園子ちゃんがでも!と声をあげた。
「流石にこの胸で私服だったら勘違いするって!」
「おいおい、まだ発展途上なだけって言ってるだろ?」
途端に下に会話が流れたので噎せかけた。声が大きいよ園子ちゃん、なんかデジャヴ。確かに言われてみればスレンダーな体型の真純ちゃん、きっかりした制服とは言え二人と比べると差は分かる。どうしよう女子高生の胸元ジロジロ見比べるとか犯罪臭いことしてしまった。
「いぶきさんも結構あるわよね」
「やめてよ…あ、でも私も大学までぺっちゃんこだったよ」
「うそ!」
「ホントか?!」
勢いのある園子ちゃんと真純ちゃんをどうどうと収めながら声を潜めて話す。自然と顔をテーブル中央に寄せあって話す光景は傍から見たら滑稽だろうが大きな声で話す内容ではない。しかし女子が集まればこういう話になってしまうのも性である、しょうがないのだ。
「真純ちゃん、お店で測ってもらったことある?」
「店って下着屋のか?ないない」
「胸って下着一つですんごい変わるよ、私もずっとサイズ間違ってたみたいで途端に二つカップ上がったもん」
「え、そんなに変わったんですか?」
「蘭ちゃんと園子ちゃんももしなかったら行ってみなよ。あ、でもブランドでサイズ感違ったりするから気をつけてね」
今度行こう、と話す園子ちゃんに蘭ちゃんが恥ずかしいと言い出したので知り合いの務めている下着屋を教えておいた。言えばちゃんと見ないように配慮してくれるし、と告げれば蘭ちゃんに「いぶきさんってお友達多いですよね」と褒められてしまって照れた。その友人の「背中はおっぱいだ!」という迷言は言わない方がいいだろう。いや名言なんだけどね。
「友達は多いけど男運がな〜」
「そんなこという園子ちゃんにはなにも奢ってあげない」
「あー!いぶきさんほんっとなんでもパーフェクト!!」
投稿日:2017/1005
更新日:2017/1005