奏でるのならコバルトに

「俺の家近いから寄ってけよ」


なんの躊躇いもなく、自然と誘われてしまっていた。
その原因は土に汚れてしまった私の格好のせいだ。ハトを埋めたい、そういった私に奥村君が連れてきてくれたのは一番近い場所にあった神社だった。この町に来て神社があるかをわざわざ調べたのにも関わらず見つけられなかった時のあの心情を察してほしい。昨日あんなに走りまわっていた近辺にこんなに森の茂った神社があったなんて聞いてないと、内心しょんぼりしたがここを教えてもらっただけでもよかったと思おうと切り替えた。こんな場所に勝手に動物の死骸をうめるのも如何なものかと思ったのだが他に当てがなかったのだ、人が入ってこないようなかなり木や草が生い茂った場所にしたが、今度なにかお供え物でも持ってこようとこれからお世話になるであろうことも含めてそう考える。
奥村君が拳に怪我をしてしまっていたのでなんとか説得して私が率先して土を掘らせてもらった。怪我をしている手で土など弄らせてしまって菌でも入ってしまっては大変だ。

だからこそ彼よりも汚れに汚れてしまっている私に彼がそう声をかけたのも当たり前の流れだった。都合よくスコップなんてものはないので手で掘り返していた固い土のせいで爪の間にまで入り込んだ土の色。膝をついての作業だったのでチノパンの色もそれにところどころ染められていた。
初めはこれくらいならと断ろうと思ったのだがどうやら顔までかなり泥だらけらしく、明るくなって人通りの多くなってきた中そんな私を放り出すことに納得してもらえず結局は彼の笑顔に流されてしまった。決め手は奥村君のここから家戻れるのかという一言だったとは私の名誉のために秘密にしてもらいたい。


「へぇー、あそこの高校か…ガラ悪い奴多いから気―つけろよ」


「え」


道中、そういえばと中学や進学先の高校の話を振られた。中学は一応卒業した形になっている場所の名を出してここからは遠く県の名を出して説明をする。だから道に自信が無いのだと遠まわしに言い訳をしていたところさらりとそんなことを教えられてしまった。
奥村君自身は進学しないそうなのだがここから近い高校ではあったので中学で進学先にどうだとすすめられたことがあったらしい。加えてなんどかそこの制服を纏った男子生徒に絡まれたという。言外に喧嘩したのだろうというのが伝わってきて少し先が不安になってしまう。


「あ、いや…俺が変なのに目付けられてよく絡まれるってだけだからお前は大丈夫だろ」


少し慌てたように手をバタバタとせわしなく動かしながらそうフォローを入れてくれる奥村君に、どうして目を付けられてしまったのかと突っ込めばいいのかよく絡まれるのだとポロリと教えられてことに慰めを覚えればいいのか分からない。
そして小さい声で多分…と続けられてしまい、今度こそ困った様に笑ってしまった自覚があった。


「そっか…ありがと、気を付けるね」


先が不安だ、と思いながらも予め心構えができたことに感謝しようと前向きに考えれば自転車を押しながら歩いてくれていた奥村君の歩みが遅くなった。
実は二人乗りをするかと誘ってくれていたのだが、恥ずかしながら自転車自体に乗れない人間であるので座る場所のない彼の自転車の後ろに乗ったとしてもバランスを崩してしまうだけだろうからやんわりと断らせて頂いた。というより怖かった。快く共に歩いてくれていた彼だったので疑問を感じて振り返ればどうやら曲がるらしかった。通り過ぎようとしていた、恥ずかしい。


「それじゃあなんかあったら言えよ、なんかしてやれるかもしれないし」


ケロッとそんなことを言いながらハンドルを左に曲げて屈託なく笑顔を見せられる。
それに呆気にとられてしまったのはその言葉に戸惑ってしまった事がおおきかった。きっと間抜けな顔をしているだろうが、また先ほどと同じ速さでカラカラと自転車を押し始めた彼に辛うじてついていく。なにかあれば彼に相談しても、いいということだろうか。
それは、なんというか。
ふわふわと顔の筋肉が今度は持ち上がるのを感じ、それくらいに嬉しいと思えたことに気が付く。昨日も思ったがなかなか挙動不審だったであろう私に気をつかってくれたりと、彼はこの笑顔が似合う優しい人だ。どうか今回は妙な事をしないでいたいと、希望を抱く。藤本さんの話では彼は普通の人なのだ。こんなに素敵な笑顔を向けてくれる人に“あの”目を向けられるのは堪えそうだ。


「ありがとう」


零れる様に自然に出てきた言葉が自分で心地よかった。
おう!とまた笑顔が返ってきてまた感謝の想いが膨らむ、泥だらけの顔で私も笑顔を浮かべていた。




 - return - 

投稿日:2017/1126
  更新日:2017/1126