孤独の夕べに哭けたなら


「ごめんって」


「にゃにをする…!!い、痛…なんたる屈辱…!」


頭から煙を出して伸びてしまった不細工猫を放って置くわけにもいかず、つんつんとつついて目を覚まさせれば起き抜けに頭を抱えて唸りだした。そんなに強く殴ったつもりはなかったのだがここまで痛がられてしまうとそうでもなかったらしい、素直に謝ればこんなもやしのような貧弱な奴にと随分罵られたのでもう心配してやるのはよそうと決心した、失礼な猫だ。
涙目で未だに非難するような目でこちらをみてくる眼は黒い。やはり気のせいだったかと気を抜いて痛がる猫の背中をぽんぽんと叩いてやれば不思議なことにそのまま猫の手触りだった。というかやっぱりにゃにとか言ってるし。


「ぐぬぬ…白アスパラめ…」


「いい加減怒るよ、にゃんこのくせに」


「にゃんことはなんだ失敬な!」


がばりと起き上って私の手から逃げる様に怒りをあらわにするその様がまさに猫なのだが、不細工な猫なのだが。
猫曰くこの招き猫の姿は本来の姿ではないらしい。依代がどうとか封印がどうとか。その言葉に先ほど見えたような気がした獣を思い出したが目の前の大福のような猫からそれは連想できなかったので忘れることにした。丸すぎる体を利用して器用に座り込んで短い前足をぶんぶん振って抗議しているがなかなか面白いからやめた方が良いと思う。


「本来の私は、それはそれは優美なのだ」


「じゃあにゃんこじゃないの?」


あえて優美という言葉には突っ込むまい。だからそういっているだろう、と偉そうに言って来たので少しムッとして木の元に丁度良く生えていた猫じゃらしを引っこ抜いて猫の目の前で揺らしてみれば面白いくらいに猫だった。やっぱりにゃんこじゃないか。
冷めた目でそれを見ながら適当に猫じゃらしを揺すっていたのだがその私の目線に気が付いたのかハッとして猫じゃらしを持つ手に猫パンチを喰らわされた。地味に痛い。


「ゴホン、そこでだお前、友人帳を持っていることが分かったのだから私はお前に憑こうと思う」


「やめてください」


即答か!と怒鳴られたが嫌なものは嫌だ、大体なんだ憑くって。心の底からやめてください。化け猫に取りつかれるなんてだけでも嫌なのによりにもよってこんな不細工なのごめんだ、鏡を覗いた瞬間とかに自分の顔の横にこの顔があったら私は笑えばいいのか泣けばいいのか怒ればいいのかわからない。


「まぁ憑くというのは冗談だが結界を破ってくれた恩義もある、これからはお前の用心棒をしてやるから“先生”とでも呼ぶんだな」


「用心棒って……」


おもむろに鞄の中から友人帳を取り出す。少しだけにゃんこを…先生を警戒してみたが私に殴られた頭を未だにいたそうに前足で撫でていたからその気持ちも削げていった。
日の下でみるそれは昨日と変わらずにある。手触りも、鼻を近づけたときにほんのり漂う古い匂いも変わらない。勿論、先生のこともあったし昨日から追いかけてくる頭でっかちの事もあったからこれが妖に狙われているんだろうということは簡単に予想が出来た。でも、そんなに危ないものなのだろうか。考えていたことが顔に出ていたか、にゃんこは……もう面倒だからニャンコ先生でいいか、ニャンコ先生はなんだなにも知らんのかと呆れたようにこちらを見てきた。


「友人帳にはな、夏目レイコが負かした妖もの達の名前が書いてあるのだよ」


「ま、負かしたって…」


「レイコは出会う妖たちに次々と勝負を挑んだ、生まれながらに強力な妖力を持つレイコは全戦全勝、そして負けたものには子分となる証として紙に名を書かせた…それを綴りにしたものが友人帳なのだ」


それってどんなカツアゲですかと思った私は悪くないと思う。まさかそんな経緯で集められたものだなんてだれが思っただろう。これが名前なのは分かってはいたが妖の名前の書いてあるものの表紙が友人帳というからにはもっと友好的なものだと思っていたのに、予想していたどれでもなかった。嘘でしょうレイコさん妖に勝負を挑んだって、しかも子分って言ったよね先生。なんて不穏な響きなの。しかし話はまだ続く。


「その契約書を持つ物に名を呼ばれると逆らうことはできないと言われている、つまり」


名を連ねた妖もの共を総べることが出来てしまう。
弧になった目を細めて恐ろしいだろう?というニャンコ先生をジッと見つめ返して私も口を開いた。


「蝶、留まってるよ、尻尾」


バッと振り返りながら奇声を上げた先生に溜息をつきながら、だったらやることは一つだろうなと友人帳を捲って名前に指を這わせた。





 - return - 

投稿日:2017/1126
  更新日:2017/1126