手渡しの毒林檎
「おいメフィスト、どう言う事だ」夏目みこと。
もうどうしようもないくらい言い逃れの出来ない名だった。
ちょうどいいタイミングなのか分からないがメフィストからの電話。
彼女に断り、一度部屋の外に出て問う。
何時もより幾分低い声がでて思った以上にこいつに頭にきているのかと少し驚いてしまう。
『おや?なんですか情けない。別にあり得なくはないシチュエーションでしょう。』
ニヤついた声、だなんて変な言い方かもしれないがまさにそれだ。
心底腹の立つ歌うような返答に逆に落ちつかされた。
呆れたともいう。
横目に雪男が外で聖水をまいているのを見てやってるなあ、と真面目なあいつに感心する。
「だからって、燐のいるこの家にだぞ」
言いながらそういやあいつに聞かれちゃ不味いななんて思い、場所を変えるかと今出たばかりの部屋に腰からぶら下がる"鍵"を一本取り出し、差し込み、遠慮なく開く。
薄暗い部屋に椅子と机が申し分程度に置かれた部屋。
キチンと扉を閉めれば閉塞感が増したように感じた。
汚ねぇが誰の耳もない、そんな部屋。
つまりは今、ちょうどいい部屋。
長居するつもりはなかったので壁に寄りかかる。
電話だって長々していられない、していたくない。
上機嫌な電話の相手に本当に事の重大さをわかっているのかと問いただしたくなる。
こいつの場合こんな状況だからこそなんだろうが流石に俺でも楽観視できない。
『本来ならば決して交わる事のない捻れた関係にある者達が、こうも巡り合わされたかのようにあれば、笑うしかないでしょう』
そういって本当に愉快に笑出したメフィストになんて頭の沸いた奴なんだと再確認してしまう。
『いやいや、それにしてもこうも偶然が重なればこれは必然にもなりうりそうだ。』
どう言う事だ、と聞こうとするのをわかっていたかのように話し出すメフィスト。
『わからないのですか?彼女は魔障なんてもの受けない身体なんですよ?』
だろうな、と無言のまま肯定する。
魔障を受けないだなんておかしなことをと思うかもしれないが、俺はそういう人物を知っていた。
要領を得ない言い方かもしれない。意味がわからない俺たちの会話だろう。
ただ、"夏目"みことはそれに分類される人間である。
それだけは言える。
『では、何故低級悪魔なんぞが集まると思いますか?』
思考が停止する。
そういえば雪男も言っていた、魍魎が多いと。
だからさっき聖水だってまいていた。
そうだ、本当になんで低級悪魔なんぞ??
俺の知るあの人に至ってはメフィストですら長時間側にいられなかった程"神聖"だったのだ。
『前触れですよ、とびっきりイベントの』
「前触れだと…?」
『神聖なものほど、穢れをしればそれほどに惹かれる物はない』
きっと背徳感に似た感覚でしょうなぁと、うっとりした声に何を言い出すのかと思う。
「ちょっと待て、お前、あり得ないんだろう?お前ですらあの"夏目"は…」
『ええ、勿論。力のある彼女になら私でも無理でしょうねぇ』
そうだよな、とひとりごちてだったら何故と尚更理解できなくなる。
実際さっきあった少女がどれだけの人物であるのか俺は知らないがメフィストが言うんだからそうなのだろうと納得する。
俺の知っている似ている人は、凄かった。
悪魔こそ見えていなかったが、それはそれは凄かったのだ。
『イヴが林檎を食べた時、それは"墜落園"、アウトオブエデンですよ藤本!』
なんなんだこいつ、本当になにが言いたいんだ。
いつも遠回しに言葉を言うが理解できないことはなかった様に思う。
今回のこれは一体なんだ。
『彼女が堕ちるのを、待っているのですよ』
「堕ちるって、お前な…」
それは無理だと自分で言ったばかりではないか。
『唆す蛇も、共に堕ちるアダムもいるようでいない、ですが藤本、その禁断の木の実はあるのですよ』
ブツリ、と。
何故だか不吉にしか聞こえない言葉を残して電話が切れた。
結局あいつが何を言いたいのかわからなかった。
いや、あえて俺にわからないように言ったように思える。
何故ならあいつは、待っていると言ったのだ。
恐らくあいつはこれから起こるであろう事を期待している側なのだ。
俺はそれがなんなのか全く分からないからこんなにも不快なのだろうか。
だが、間もなく思い知る。
俺はあり得ないのだと理解しようとしなかっただけだ。
明確にその目に魍魎を追う彼女を見て、ここまで後悔したのは久しぶりだと冷静を装いながら思った。
本当、厄介なことになった。
投稿日:2017/1126
更新日:2017/1126