レプラコーン


もうやだこいつ。古典の授業なんぞ頭に全く入ってこなかったが無心で板書をノートに書きなぐる。でないと机に突っ伏して奇声を上げてしまいそうだった。櫛谷の腰には未だにぎらぎらと目に優しくない物が巻かれているままであるというのに次から次へと、ほんとうにもうやだこいつ。
櫛谷机にかけられた鞄、その中を櫛谷が見た時にガッツリと目の合った小さな何か。自分の手中指ほどの大きさであったそれはしかし皺くちゃの顔に大きな鼻、ボロボロの皮のエプロンを付けており、見えはしなかったが恐らく足は一本という奇天烈な存在だ。もう言わなくても分かるだろうが悪魔だ、悪魔だった、間違いなくどう頑張ったって悪魔だった本当にありがとうございます。どうして鞄の中に平然と悪魔を入れて登校してきとんねんこいつ、ほんまなんやねん、なんでやねん、誰かこいつをなんとかしてくれ。
最近物忘れが酷いと思っていたが原因判明だ、こいつが犯人だ、と櫛谷の鞄の中身に対して思う。そいつの正体はレプラコーンと呼ばれる悪魔で、よく知られる童話「小人の靴屋」に登場する妖精がこのレプラコーンに当たるとされている。童話では一日に靴を片方しか作れないと記されており、その理由は諸説あるが一番有力説としてはレプラコーン自体が片足である為とされている。しかし童話に書かれていることだけが悪魔の本質ではない、ああいった類は悪魔を悪魔として認識していない人間が記していることが多く、その本性を逃していることが多々あるのだ。このレプラコーンに対してもそれは顕著で、目が合ってしまってから一瞬でも目を反らすと直ぐに悪戯を仕掛けてくるという特徴がある。目を合わせなければいいという簡単な対処法もあるうえにこいつらの行う悪戯は本当に悪戯レベルの物なので今まで大きな事件に繋がった件はない。しかし頻度だけはピカイチであるので、アイルランドなどでは「レプラコーンに注意」という交通標識があるくらいに「よそ見注意」という戒めとして残っている。
そしてそんな悪魔がどうしてか櫛谷の鞄の中にいた、嫌なんでだよと声を大にして叫びたい。魔障を受けていない、つまり見えない人間に対してレプラコーンが悪戯をするという話もあるのは知っているがだからといってどうして櫛谷なんだとレプラコーンに問いただしたい。しかも鞄の中にいるって、なんやねんどういうこっちゃや。あまりのことに頭まで痛くなってきた気がする。眉間を指で揉みながらため息をついてみたが薄らと目を開けたとたんに櫛谷の方が少し煌びやかだったので泣きたくなった。ホンマに公爵夫人の宝冠目立ちすぎやねんて、目に痛いんやってもうちょい光度下げてもらえんやろかそれかいい加減回収しに来てくれへんやろかグレモリー。花園という櫛谷を挟んで隣の席の女子なんぞ櫛谷を見るたびに顔を赤くし、話しかけられれば湯気でも上げるのではないだろうかというくらいにやはり赤面していてで見ていて不憫だった。恐ろしやグレモリー、いや櫛谷。
櫛谷のこの恐ろしさについては奥村先生とも何度も話し合っているが二人で話し合った結果一つの結論に至らざるを得なかった。こいつ、櫛谷は霊感皆無なくせしてホイホイなのだ、悪魔ホイホイ。流石に鞄の中にまで悪魔が入っているだなんてそんな妙な事をしているのは学園内でこいつだけだと俺は断言できる、絶対にだ。少し歩けば知らぬうちに悪魔を引き連れていたり引き込まれていたり、妙なものを拾っていたり拾わされていたり呪われてみたり祟られてみたり。いい加減にしてくれ頼むから。どうしてくれようかと奥村先生と審議中ではあるのだが未だに櫛谷のホイホイをどうにかできる算段は立っていない。そもそもこんなに次から次へと問題を起こす奴もそういないらしい。
因みに試せるものは試しているのだ。簡易なお守りにしても、まじないにしても、結界術に近いものも。本当に色々試しているのだが一日経つと流石櫛谷、効果が皆無になった状態で学校へとやってくる。「これ持っとけ」といって無理やり押し付けた悪魔よけのお守りも快く受け取ってはくれた櫛谷だったのだがそれも未だに鞄についたままでいてくれているのだが。おい仕事しろよお守り、お前の付けられているその鞄の中にいるぞ悪魔、我が物顔でいるぞ。


「……勝呂、本当に大丈夫?具合悪い?」


授業中であることを考慮した小さな声で櫛谷に囁くように聞かれたので目を向ければ、少し体もこちらに寄せていたようで距離が近かった。眉を下げて心配そうにこちらを見る櫛谷だったが残念ながら頭痛が増した。


「(だから眩しいっちゅうねん……)」


言葉だけ聞いたなら臭い台詞にも聞こえただろうが如何せん物理的にリアルに眩しい、直接太陽光でもがん見している気分だ。そのレベルだ、お前頼むからそれはよ取ってもらえよグレモリーに。しかも視界の隅でまたレプラコーンが悪さをしようと机の上に上がってきているのを見つけてしまって、思わず櫛谷の問いに頷いてしまいそうになってしまった。





2015.11.13


 - return - 

投稿日:2017/1203
  更新日:2017/1203