閑話

知ってる?あそこの角の部屋の噂


え、知らない


なんでもね、ずぅっと前らしいんだけれどもーーー




グッと体を伸ばして背骨を反らす。気が付かないうちに猫背になってしまっていたようで景気が良いほどにぽきりと骨が音を鳴らした。もうすぐに迫ってくるテスト期間に備え、範囲が発表された科目の勉強をしていたのだが嫌に集中できない。ため息を零すのをぐっと耐えて代わりにその吐息を飲み込めば胸のあたりに鉛が溜まるような息苦しさを覚えた。ぶっちりと切れてしまったやる気に自分自身で呆れかえってシャーペンを机へと放る。そのカラン、と小さい音に反応して二人分の視線が私に向いた。


「…なんで当たり前のようにいるの……」


「なんやええやろ別に」


「教室だと集中できなくて」


私の疲れ果てた声に何言ってるんだ今更といった視線を寄越した前者と、困った様に眉を下げた後者。言わずもがなかもしれないが勝呂と奥村君だ。
今現在私たちがいるのは私が穴場として見つけていた勉強場所の一つで、事務室の傍にある奥まった廊下の先にある丸テーブルが一つだけある場所だ。日当たりも良く、近くにある窓の下には中庭が広がっている。丸テーブルは外様に作られている物なのか金属性で、下の中庭にあればさぞしっくりと嵌るであろうデザインであり、椅子もセットのものだったのか全く同じデザインのものが四つ、テーブルを囲っている。普段であればそのうちの二つを自分に寄せて、窓を正面にして座りもう一つの椅子に荷物を置いていたのだが私の両隣には勝呂と奥村君がおり、余った椅子は窓側で何も上に置かれることなくポツンとそこにあるだけだった。
テスト期間が近い今、穴場として使用していた場所のいくつかにも人がいることが多く、放課後になっても学校に人が残っていることが多くなった。教室は勿論、図書室、自習スペース、目下の中庭などなど。別にそれはいいのだ、まだ人の誰も来ない場所もいくつか残っていたし私が別の場所に移動すればいいだけの事だから。しかし、だ。


「いや…なんでついてくるの?毎回」


そう、それだった。私が勉強道具を広げさぁ、という時にこの二人が必ずふらりとやってきて同じ空間で勉強を始めるのだ。勝呂が「よお」なんて声をかけてくるから「よお」と同じように返し、気が付けば三人で勉強をしているような状況になる。先に行っておくが約束なんて全くしていないのにだ。最初は偶然かと思ったが流石に今日のこの決して広いとは言えない場所までついてこられればいい加減気が付く。こいつら、ついてきたんだと。


「今更か」


先ほどの顔のまま、その表情に書かれた言葉を勝呂が呆れたようにぼやく。この二人と一緒に勉強をし始めてどれくらいたったかを考えて本当にその通りだと思った。軽く一週間は経っていた。
しかし、だ。この胸に吹きだまるような不快感、ギュッと圧迫されるような肩こり、なにより気だるい体から私自身が限界だった。
要はストレスだ。勘違いをしては欲しくないのだが別に二人が悪い訳でも嫌な訳でも無い。単純に、私の性格の問題だ。寮生活ともなれば自然と一人の時間というものが無くなる。生活のなかすべてに他人がいるというのがどうも私には我慢ならないのだ。だからこそ入学してすぐに一人に慣れる場所を探した。しかも今回は勉強時間に一人でいられないということにも負荷をかけられていた。本当に一人で黙々とやらないと集中できないのだ。他の人がいると話しかけてしまうというのもあるし、相手がなにを勉強しているのかとか、どれだけ進んだのかだとか、そう言うことに頭を持っていかれてしまって自分の勉強に全くならない。
けれど、だからといって追いかけてきてまで私と勉強してくれている二人にそれをぶちまけるのも絶対に違うというのは分かった。一人でいたい、一人になりたいという欲求以上に二人の事は友人として大切だったし、二人というのが嫌という訳では本当にないのだ。ただ、苦ではあるのだけれど。


「疲れたんか?」


「え、いや」


「あ、僕飴ありますよ」


「うっわなんか奥村君に似合いそうもないパッケージだね」


「怒りますよ」


そんなやり取りに凝り固まった肩を回しながら笑っていたから二人が意味深に目を合わせていたことにも気が付かなかった。




 - return - 

投稿日:2017/1203
  更新日:2017/1203