閑話

まずいな、と櫛谷さんの顔色を見ながら思う。元々日に焼けにくい肌なのか白いには白かったが、頬にさしていた赤みが失せて目元は薄らとだが隈が見える。食も細くなってしまったのか、今日の昼など購買で買っていた焼きそばパンを半分残していた。彼女のその様子に最初に気が付いたのは勝呂君で、調子が悪そうだと相談をされたのはレプラコーンのあれがあった3日ほど後だったか。
原因は恐らく、グレモリーのそれによってもたらされた女性から好意を寄せられるというあれだろう。今では彼女の腰にあの煌びやかな布は無くなっているのだが結局櫛谷さんから効果自体が抜けるには未だに至っていない。簡単に言えばまだこの人は女性から好意を多く寄せられまくっているのだ。下駄箱を開けた時に手紙が出てきてみたり机の中から誰かの作ったであろうお菓子が出てきてみたり休み時間に女の子に囲まれてみたり。まあ、それくらいなら可愛い方だろうが廊下で所謂壁ドンをされていたのを目撃した時は流石に止めた。恐ろしいことに櫛谷さん自身は突然の事に茫然としていて何が起こっていたのか全く把握していなかったが脱がされかけていた、ドン引きしてしまった。危機感が本当になさ過ぎてドン引きした。因みに下駄箱に入っていた手紙は自分あてだと思わなかったらしく同じ苗字の男子(他のクラス)に渡しにいって波乱(一見では櫛谷さんが男子にラブレターを渡したようにしか見えなかったので)を産んだし、お菓子の方も同じように誰かが間違えて入れたのだろうと担任に渡していた。
次第に女の子たちの行動はエスカレートしていった。このころには僕と勝呂君が彼女よりも先にそれらを回収した方が良いという話になっていたので知っているのだが、手紙に髪の毛やら櫛谷さんの写真やらが入っていたりお菓子の方も然りであまりにも怖くてよくは確認していないが勝呂君と共に一時期女性恐怖症にまでなるかと思ったくらいだった。本当に。もうだめだと諦めかけた頃に、やっと彼女の腰から悪魔の布が消えた、勝呂君と涙を流して喜んだ。
当の本人である櫛谷さんは手紙やらお菓子やら襲われかける×4回では全くどうにもならないほどに図太い神経を持ち合わせていたのにも関わらず、人に沢山関わったことの方に気疲れしてしまったらしい。グレモリーが腰布を回収してくれて僕らが万歳をする傍らで、まだその効果が継続していると気が付いた僕らの方が何倍も疲れているというのにこの人はと恨みそうになったがここまでげっそりとしている彼女を見るのが初めてで酷く驚いてしまったのを覚えている。あんなに図太いくせに、そんなことでこんなにやつれてしまうなんてと思ってしまったが櫛谷さんにとっては本当に心労の溜まるものだったのだと思う。
別に人といるのが嫌という訳ではないだろうし、櫛谷さん自身も賑やかとまではいかないがクラスの中でも大人しいという部類に入る訳ではない。誰かと楽しそうに話していることも多いし一人で暇そうにしていることだってあるのだ。しかし、だ。そんな彼女が参ってしまうほどに、グレモリーの恩恵は容赦がなかった。あんなに四六時中肉食丸出しな女の子たちに囲まれてみれば、櫛谷さんの疲れ具合も理解できてしまった。寮で部屋が近いという朴さんに話を聞いてみたのだが壮絶だった。聞かなきゃよかったと勝呂君が顔を真っ青にしていたし話している朴さんも顔色が悪かった。因みに櫛谷さんと同室の人にはグレモリー対策としてこっそりと色々とさせてもらっていたので部屋では大丈夫だったと思いたい。
その効果が、まだ継続中となればあまり櫛谷さんを一人に出来ないのだ。襲われかけていたのを目撃したあたりからなるべく一人にならない様にと勝呂君と根回ししていたのだが、テスト期間が近くなってしまって櫛谷さんが積極的に一人になろうとするものだから彼女が嫌がるだろうことも理解したうえで勝呂君と付け回すような事をしてしまった。
申し訳ないと思いつつも、疲れた顔をしてそれでも笑ってくれている櫛谷さんに甘える。なんの説明もなくこうやって付け回しても許してもらえるほどに彼女は甘く、同時に僕らに気を許してもくれている。それを僕も勝呂君も理解していて、だからこそ放置しておくのが忍びない。
疲労にいい成分が多く含まれる飴を三人分机に出しながら、こっそりと櫛谷さんの目元を覗き込んで、その目がまだ笑ってくれていることにそっと安心した。




2016.3.27

 - return - 

投稿日:2017/1203
  更新日:2017/1203