ザリチュ
「ッゲホ」風邪ひいたかも。喉がいがいがするしなにより咳がでる。熱っぽい訳ではないのでまだ薬に頼るのが癪で放置していたが、どうにも長引いているなと気が付いた。如雨露の中身が空になったので一度それを花壇の淵のレンガの上におき、喉を温めるように手を当ててみる。うーん、しばらく風邪も引いてなかったからなあ、正直認めたら悪化しそうで嫌なのだが、これは風邪だろうなと判断する。しゃがみ込んで如雨露から与えられた水滴できらきらと輝く花をなんとなしに眺めながら、人にうつすとまずいからマスクでも買おうか、と考える。つん、と白くて小ぶりな花を人差し指でつつけば水滴がぽろりと指に伝う。何の花なのかは知らないがだいぶ前にこの場所を見つけた時に比べて随分と良くなったものだと少しだけ嬉しくなった。というのも、勉強場所を探している時にたまたま見つけたこの中庭なのだが、手入れをされていなかった為かしおしおと萎びた葉がちらほらと埋まっていただけの状態だったのだ。それがここまで花壇にびっしりといっぱいになって花まで咲いたとなると世話をしていた身としてはそれなりに嬉しい訳で。いままで植物の世話などしたことがなかったのでこれで正しいのかと恐々と水をやっていたのだが、こうして咲いたという事は合っていたのだろう。雨が降ってからどれだけ開けたらいいのかとか、そもそも雨を遮るようにした方が良いのかとか多少は悩んだのだ、これでも。まあ結局なるようになれと水をやるくらいしかしなかったがまあ結果良ければ総て良しだろう、うん。
こみあがってくる咳を我慢せず、喉を振るわせれば目の前にあった花が小さく揺れた。喉から来る風邪は何色の何だったか、最近テレビを見ていないので記憶が薄いが薬局に行けば分かるだろうと膝を叩いて立ち上がる。こんなにいい天気だというのにまだテスト期間なせいで散歩にすらいけない、畜生早く終われテスト。ぐっと伸びをした時に制服のポケットに入れていた携帯がブルル、と振動したのがうっすらと耳に届いて少し億劫になる。たぶん、というか八割くらいの確率で相手は。
「…うん」
手元の携帯画面が表示しているのはやはりというか、奥村の文字。どうにも最近、これでもかと言うくらいに逐一連絡がくる。それがテストの事だったり用事があっての事なら別に私もこう気にしないけれどそうではないから問題があるのだ。『今どこですか』、『妙なもの拾わない様に』、『あの部屋はダメですよ』、『勝呂君とそっちにいきます』、『今すぐそこから出てください』。
いや、なんというか色々と突っ込みを入れたい。まずこういった連絡が来始めた頃教室で本人にも大声で言ったのだが、おぬしは私のかーちゃんか!!妙なもの拾わない様にってなに、拾い食いでもすると思っているのか奥村君は。今どこですかはまあ分かる。私の事を探しているのか直接会って渡すものがあるのかとか考えられるけれど特に後半は流石の私でもん??と疑問に思うしイラッともする。あの部屋はダメって、なんで。別に立ち入りが禁止の訳でも無いのにどうしてそんなことを奥村君にいわれにゃならんのだ。この前なんて本当に酷かった、あんまりにもここもダメあそこもダメと言われるものだから図書館で勉強しようと思って言ってみれば、席に着いた途端になぐられた、勝呂に。勝呂曰く「なんっでその席やねん!」らしいがこいつ何言ってんだと言い返さなかった私を誰か誉めてくれ。勝呂が真剣に言っていることだけは分かったから殴ってきたことも殴り返すことで許した、けれど結局そのまま図書館すら出禁にしてきた奥村君に関してはよくわからなかったし理解もできなかった。当たり前の様に「今後は出入りしないでください」と言われたときの私の気持ち。だって私なりに考えて妥協して、あまり好きではない図書館に行ったのにそれをまるで私が悪であるかのような顔と声でそんな風に言うのだ。
傷ついたし、意味も分からなかった。奥村君私の事嫌いなのか?と思ったがこうしてまめ過ぎるくらいに連絡をくれるという事はそう言う訳でも無いんだろう、と思う。一人で静かに勉強したい、そう思うけれどなんとなく二人にそれを言うのを躊躇ってしまうのは二人が良い人だからだ。勝呂だって手は出るし口はきついけれど私が困っている時は決まって真っ先に声をかけてくれるような面倒見の良さがあるし、奥村君だって周囲の女子の猛攻(勉強教えて攻撃である)を掻い潜ってまで一日に一度は私の様子を見に声をかけに来ている。なんの様子なのかは分からないけれど、とにかく私の様子を確認しに来ているのは確か、だと思う。
因みに今回の連絡は『どこですか』である。偶にこちらの居場所が分かっているかのような連絡を寄越す時もあるがどうやら今日は分からなかったらしい。そこまで考えてはぁ〜と重たいため息を吐き出す。やだなあ。どうにも、普段だったら気にしないであろう細かい部分までこうして気にしてしまっているあたり私もフラストレーションのようなものが溜まってきているのか、なんて客観的に考察するもその答えを出せるはずもなく嫌味なくらい青い空を仰ぎ、もう一度だけ体から空気を絞り出した。
投稿日:2017/1203
更新日:2017/1203