縊鬼ー上
だるい、気怠い。体が重いだとか頭が働かないだとか、風邪の時特有の体の痛みだとか。多分そう言ったものが体を襲っているんだとおもう。というのもどうにも感覚が少し鈍いのだ。体が重い、というよりは動かしにくく、頭はやけに冴えている。そのせいで布団の中に入ってもなかなか眠れず、眼を瞑っている間に朝になってしまう、なんてことが五日ほど続いていた。嫌に寒気のする首元を手のひらで温めるように覆えば、力を込めていない筈なのになぜか息が詰まってくる。それがいやで首を触らない様にしていても気が付けば手が首に伸びている。気持ち悪いなあと、思う。体調的な意味合いではなく、気持ち的な意味合いで気持ちが悪い。こんなにも体は不便だったか、なんてことを思ってしまうくらいには言う通りにならない体、体というよりは肉の塊に成り下がったようなそれにちょっぴり嫌気までさしてしまっている。
「ねえ、なごみちゃんって奥村くんと喧嘩した?」
「…いや、そういう訳では」
「そう?最近一緒に居ないから」
「そんなに一緒に居た訳でも無いよ」
奥村君。少し前にまあ、ちょっとあったが。
勝手に世話をしていた花壇があった。ひっそりと誰にも見つからないような場所でそれでもなぜか咲いていたつぼみに元気がなかったから、同情のようなそんな気持ちで世話をしていた。最近はすくすくと育ち花も満開に近かったのだが、次に行った時に綺麗さっぱりその花壇からは花が消えていた。というか花どころか土まで無くなっていて、え、花壇の底ってこうなってるんだなんて四角くレンガで囲われた穴を見ながらちょっと感心してしまうくらいには混乱した。え、なんで?ここだよね、ここだったよねと周囲を見回し間違いがないことを確認し茫然と花壇に目を向けたとき、ふと何かが目に入った。この前まではそこになかった人工物と思われるそれに近寄れば、自分でも持っている生徒手帳がそこには落ちていた。それを深く考えずに拾い、裏面を確認して文字通り私は固まった。
固い表情に真面目そうに引き結ばれた口元。眼鏡をかけてそこに映る彼は私が知るそのひとよりも心持ち幼い。奥村雪男と書かれたそれを見て、さっと過ぎる一つの考え。いままでここに人が来たことはなかった。この前、勝呂がここの近くに来たくらいで、本当にそれだけしか私は知らない。
最近いつも行く先々で奥村君がいなかったか。そうであれば、これは。だって生徒手帳が落ちているという事は間違いなく彼はここに来たのだ。そうじゃなきゃここにこうして落ちている意味が分からない。どちらにしろこれは彼に返すとして、と生徒手帳をポケットに入れた時、自分の足元に小ぶりな花が見えた。ちょうど、この生徒手帳を拾ったその真下にあったらしい花に気が付いて、ああ、と声が漏れた。本当に間違いなく、奥村君はあの花壇の花があった時にここに来たようだ。隠れるように生徒手帳の下で飛ばされることなくそこにあった花は間違いなくついこの間まで私が水をやっていたもので。
あぁあ、あんまり考えたく、ないな。
そう思っている時に、タイミングがいいのか悪いのか奥村君がその場に表れてしまった物だからもう逃れようもなく私は力なく「なんで土なんてそんなにもってるの」と聞くことしか出来なかった。それ以降の会話は覚えていない。ただ奥村君が両腕に土の入った袋を抱えていて、顔色を悪くしていたのがちょっと面白いなとは思った。
投稿日:2019/0414
更新日:2019/0414