縊鬼ー上
「なんだこれ」
部屋に戻っての第一声は、弟の机の上の散乱具合に対する感想だった。
肩に乗っていたクロも全く同じような反応を示したので目を合せ、もう一度なんだこれと呟いた。
諸事情があって旧男子寮というお化け屋敷かよと言われるような見てくれの建物に住んでいる俺と雪男。その一室である自分たちの部屋。扉をあけてすぐ正面が雪男の机のため真っ先に目に入るその机の様子が、普段とあまりに違った為に驚いてしまったのだ。
今や奥村兄弟しか住んでいないこの寮は旧とつくだけあって大変古い。それでも寮というからには広いのだ、なのにもかかわらず、その諸事情のせいでこの歳もなって未だに弟を同じ部屋で生活しているのだからなんだか泣けてくる。部屋は腐るほど余っているのに何たる仕打ちと初めは思ったが、なんてことはない。実家と似たような感覚をこの部屋に覚えるのは時間の問題だったようで、すっかりと今までと同じような生活を送っていた。
雪男と自分のスペースは部屋を綺麗に半分に分けて区切り、自分の方は雑多に、雪男の方は神経質そうにすべてのものが整列して並べられている。別に線で区切っている訳でも仕切りを使っている訳でも無いが、昔俺があまりに片づけずにあちこち散らかしていた時に、ふと雪男の机の上ならものが置きやすそうだなんて考えが過ってしまい、案の定というが雪男と大喧嘩になりジジイに拳骨を喰らったことがあったのだ。なんとなく、その時からお互いのスペースには物を置きあわない、なんて決まりというほどではないがそんな認識をお互いに持っていた、あれだ、アンモクノなんとかって奴である。
ここに引っ越してきてから、つまりエクソシストだとか悪魔の事だとかを俺が知ってから雪男の机の周辺は確かに豹変した。なんに使うのか全く分からない謎の草が上からぶら下げられて居たり、何語か分からない言葉の書かれたシールのついたビンがびっしりと並べられて居たり。それでも違和感をあまり感じなかったのは、置いてあるものが増えたからと言ってその整理整頓の仕方が全く変わらなかったからである。
しかしだ、どういう訳か今日の雪男の机の上は俺から見ても汚い。色々なものが広げられ重ねられ、それが机の上にとどまらず椅子の上やベッドの上にまで及んでいた。
「何探してたんだ?」
雪男がこんな風にごちゃごちゃと物を広げる時は、大抵物を探している時だ。雑なところは雑な雪男なので、物が多くなるとどこに仕舞ったのか忘れてしまい偶にこうしてすべてをひっくり返すような探し方をすることがある。それが見つかったのか見つからなかったのかは流石にこの現状を見ても分からないが、なかなか慌てていたらしい。広げられたまま片づけられていないのと、本人がここにいないことがその証拠だ。ついでのようにベッドの枕元に制服のジャケットが丸められて置いてあるのを見てちょっとだけ笑いが漏れた。
『りん?』
「いや、なんか似たようなこと前もあったなって思っただけだ」
一先ず自分の机の横に鞄を置いて、干し草やらなんやら、独特の匂いの強い雪男のスペースへ足を運ぶ。まだ大して時間は経っていなかったのか、拾い上げたジャケットはそこまで皺が付いていなかったので、普段雪男がそうしている様に、ハンガーにかけておく。
『似たような事?』
「雪男がジジイから預かってたもんをどっかで無くした時だったかな…」
『シロウの?』
途端に嬉しそうに尻尾をパタパタさせるクロはなんだか犬のようだ。続きを聞きたがっているようだが、生憎そこまできちんと覚えていない。かなり前の事だったと思うし、なにを無くしたのすら覚えていない。それが見つかったのかのかさえ。けれど雪男が半べそかきながら、折角綺麗に片づけていた部屋中のものをぐちゃぐちゃにしてしまうのをみて、一緒になって俺の方の引き出しなどの中身を全部出したことは、薄らとだけれど記憶にあった。
2019.4.14
投稿日:2019/0414
更新日:2019/0414