サバド

「櫛谷さん何をもっているんですか」


「え?ああこれ?これこの前の聖堂で拾って…ぎゃ!!なんで捨てるの!」


「なんてもん拾ってんだあんたは!」


「(先生地が出てまっせ…)」


遠い目になりながらそんなやり取りを横目に見つめる。櫛谷という女はとにかくトラブルメーカーなのかここ最近はやれ呪われた手鏡を拾うやら、うっかり神隠しに合いかけるやら異空間に閉じ込められてみるやらと忙しい。本当にこれは酷い。見ていて危なっかしいどころではない。素手でたき火の中に手を突っ込んでコンタクト落としちゃってーとか言ってるレベルだ。要は危険すぎて訳が分からない。そんなところにコンタクトをどうやって落とす、だいたいもう燃えているだろうし諦めろ、あと素手じゃなくてトングを使えせめて。どういうこっちゃと叫びたい。今もキーホルダーらしきものを手に持っていたのだが櫛谷の手には血が滴っているし奥村先生が投げたものは一瞬しか目に映らなかったが俺には髪の塊にしか見えなかった。ホンマなんてもん拾っとんねん。櫛谷の言葉に出ていた聖堂もやばかった、危うくこいつ死んでた。サバトに招かれかけていた。
サバトとは別名魔女の夜会、宴会であり参加すること自体が罪とされて理不尽に裁判にかけられて処刑される。因みにこれらは全て悪魔が行っている茶番である。招くのも裁判にかけるのも処刑をするのもすべて同一の悪魔だ。しかし正式な儀式めいているものだから招待されることによって契約の意味を持たされてしまう。だからこそ危険であり、処刑まで段階が進んでしまった場合は止められたという例がないという。だがこいつはあくまで低級の弱い悪魔だ。こいつが行う儀式はそれこそ一般の人間でも気味悪がるレベルのもので、例えばまず場所は昨日のような雰囲気のある教会であることだったり、急に時間が黄昏時に進められたり、周囲の文字に死をにおわせるものに変えていったり。それが儀式に必要な条件になるらしいのだがあからさま過ぎて大抵の人間はすぐに悲鳴を上げるなり逃げるなりしてしまう。因みにこの悪魔が低級な所以はそうやって儀式を招いた本人に少しでも邪魔をされてしまえば諦めて退散してくれるところにある。だからこそ昨日は危なかったのだが。本来ああいった儀式というのは他者の干渉を許さず、本人がどうにかするしかないというのが多い。しかし櫛谷はああいう奴だ。実際昨日は奥村先生があと一歩でも遅かったら裁判の結果を告げられていて間に合わなかったという。実際、悲鳴を上げた程度では儀式は終わらなかったらしい。ホンマにどうしてくれようかこいつと思ってしまった。弱い悪魔ゆえに場所を隠すような子細工もできないのですぐに異様な空気を放つあそこに気が付けた奥村先生が駆けつけ、櫛谷に自分の足で退室するように言ったらしい。でないと儀式は中断されないのだから無理やり引きずり出そうとしたのを耐えたと言っていた、ようやったわ先生。俺ならどつきまわしてるとこや。そうして丁度儀式を中断した直後の櫛谷に俺はあったわけだが、奥村先生の姿を見てぎょっとしてしまった。あかんやろ銃火器は、それはあかんやろと櫛谷の目をなんとか背けたがこの人は隠す気がないのかと疑ってしまうレベルだった。

昨日調べた結果あの聖堂自体がどうやら異教的民間信仰の名残があったらしく、サバトに通ずるものがあったらしい。そんなこと一般の人間からすれば知ったこっちゃないのかもしれないが、そんな無知から毎回死にかけている櫛谷の天才的なほどの不運に白目を向きそうだ。
ごしごしとハンカチで櫛谷の手を拭いてやれば「はぁ?」と本気で訳の分からないという顔をされてイラッとしたがこいつは何にも知らないのだと言い聞かせる。多少霊感があってくれればいいものを微塵もそう言う感覚を持ち合わせていないらしい櫛谷は今まで何度も死にかけているという事を知らない。そしてそのたびに毎度先生に命を救われているという事も分かっていない。ホンマ奥村先生お疲れさんです。
まあ、不幸中の幸いというのかそれだけの数事件に巻き込まれ引き起こしを繰り返しているにも関わらずに櫛谷に魔障がまだないという事だ。だから見えんのやけど。知らぬが仏、無知は罪。


「体調に変化は」


「え、擦られ過ぎて手が痛いくらい、だからもういいって勝呂なに、なんなのなにしてんの」


「だぁっとれ」


「で、体調に異常は」


「さっき答えたよ奥村君だから手がいったたたたた勝呂!」


「他ないのか聞いとんねん!とっとと答えろや!」


「ないです!」


ひえ、と一瞬怯んだ櫛谷だったがその一瞬後には平時の表情に戻っているあたり無駄に肝が据わっているのだと思う。だからこそあんな陰気な部屋に入っていけるのかとため息をつきつつ粗方赤が拭えた手を解放してやる。


「……なんか、ありがとう」


「あ?何がや」


「え、だってなんか二人して心配?してくれてたみたいだし」


よくわかんないけど、と言いつつ手のひらを見つめている櫛谷を横目に奥村先生と思わず目を合わせてしまう。こいつはこういう所が結構ある。訳も意味も分かっていない癖に、こうして不意に俺たちの本心をつく。だからなんだか一緒にいて楽だし、だからこそこうやって何度も手を貸してやっているんだと思う、先生も俺も。
ふ、と奥村先生が優しい顔をして意味深に「気をつけてくださいね」と言った言葉に緩く返事をした櫛谷に、おーおーいい雰囲気なこって、と空気を読んで黙る。しかしふと、櫛谷の手元に妙な気配を感じた。


「……櫛谷、お前その本なんや」


「え、これ図書館の棚の隙間に落ちてた本、ぎゃあ!!」


サッと本を奪った奥村先生と櫛谷の目を背けるために頭を思いっきり叩いた俺の息の合いようが最近素晴らしいと塾の先生の中で話題です。





2015.9.3




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投稿日:2017/1203
  更新日:2017/1203