縊鬼ー下
「――、――」
「なんで起きてんのよ…まあ丁度良かったわ」
少し離れた位置から、神木さんの部屋らしい場所に目を向けないよう携帯を確認する。なぜか何もしていないのに画面が光り、なんだと思ったら理事長から見計らったかのようにメールが届いたらしかった。あの人暇なのか、というかこの時間まで起きているのかと思いながらこれはもう確実だろうと眉間に皺が寄った。
改めて確信をもっていうが間違いなく、この異変は櫛谷さんと関係がある。
だからこそ未だ声の出所がつかめていないという神木さんに櫛谷さんの部屋を知っているかと尋ねると即答で場所が帰ってきた。そう言えばグレモリーの一件で神木さんと朴さんには色々と手助けをしてもらっていたんだったか。名前をだすとすべて合点が言ったように遠い目になった神木さんに、きっと自分も同じ顔をいつも勝呂君としているのだろうと分かってしまって辛くなった。
部屋も近いと朴さんから聞いていた為、一度朴さんの様子を見に神木さんの部屋に寄った次第である。
祓魔塾になんの関係もない一般人のはずが、塾生に名前を把握されているという事実である。正直にいうと彼女を一般人の括りにいれることに大いに違和感を覚えるが。あんなに厄介事ばかり面白おかしく引っ掻けてくる体質だろうが紛れもなく魔障は受けておらず、未だに悪魔が見えていないなんていっそ奇跡である。よく今まで生きてこられたなと本気で疑い、実家が神社だったりするのかと探ってみたのだがごく普通の一般家庭らしい。勝呂君が凄まじく酸っぱい顔でその答えを聞いていたのを思い出して少し切なくなった。片や寺の跡継ぎ、片や教会育ちに挟まれた一般人。多少なりとも育った場所の加護があるであろう二人に挟まれてなお日課のように呪われてくるのだから堪ったものではない。
ああ、でもそう言えばそんな会話をしたのも随分と前な気がする。それもこれもうっかりやらかしてしまった僕が悪いのだが。
呑気に毒草をせっせと育成していた櫛谷さんの眼を盗んで、花壇の花を回収し土の入れ替えを行っていた時にまさか本人に見つかるとは。その時すぐにでも人には有害な花であることを説明すればよかったものの、明らかに疲れたような苦笑を見せられてしまって、言葉が詰まってしまった。あんなに頭が真っ白になってしまったあとでは上手い言い訳も思いつかず、落ちていたという生徒手帳を差し出されるままに受け取って茫然と櫛谷さんの背中を見送ることしか出来なかった。ころころと表情の変化が多い櫛谷さんだがあんな顔を見たのは初めてだった。笑みを浮かべたつもりだったのだと思うが、口元すらうまく弧を描いておらず眉がきつく寄せられていて、目を背けたくなった。
あれ以来彼女とは一言も話していない。体調が悪そうなことは把握していたし、勝呂君からも少しだけ聞いてはいたが彼も彼でこちらに気を使っているのだろう、あまり詳細には櫛谷さんの事を話さなかった。
「大丈夫そうです」
知らぬうちに考え込んでしまっていたらしい、明かりの消えた携帯の画面に自分の顔が薄らと映っていて、ハッとした様に目を見開いた。顔を上げれば神木さんがこちらに歩み寄ってきており、その奥で薄らと扉を開けた隙間から朴さんが一度会釈をして消えていくのが見えた。
「その…少し気になることがあるんですけど」
「なんですか?」
「朴と話してて思い出したんですけど…その部屋、噂のある部屋で」
「噂?」
「ここの突き当りなんですけど、自殺した生徒が住んでたらしいって」
本当にどこまでもそういう星の元に彼女は生まれているらしい。思わず唸った僕に神木さんがぎょっとしたように肩を跳ねさせたのが視界の隅に映った。
投稿日:2019/0608
更新日:2019/0608