グレモリー


いくつか、違和感を感じた。
その一、他のクラスの女子がやけにクラスの前にたむろしてそわそわとしている。入学して暫くは学年主席で入試を通過した奥村先生見たさにこういった野次が居たにはいたが、それもいい加減落ち着いてきていたし、今頃なんだと首を傾げる。ただ、彼女たちの空気がそれこそ恋する乙女さながらのどこぞのピンクの煩悩まみれの友人に似ていたので近寄りたくないと思ったが出ないと教室に戻れない。くそ、と内心で悪態をつきながらも彼女たちが一心に教室内を見ているので奥村先生も大変だなと思ってしまう。自分がこんなことをされたら胃に来そうだ。きゃあ、と高い声で歓声を上げた一段の元へ、一人の女子生徒が加わる。どうやら一人が代表して教室に入っていたようで興奮冷めやらぬ表情で周りの女子から歓迎されていた。その人物には見覚えがある、確か先ほどにもちらと出た志摩のクラスの女子だ。何度も写メを見せられた記憶があるので間違いないだろう。名前までは覚えていないが、これでは志摩は全くの脈無しと見える。ざまぁみさらせと思いつつも固まっていなくなった女子の団体とすれ違うように教室へと入る。
ここで違和感その二、彼女たちのお目当てであったはずの奥村先生が教室内にいない。これには流石にんん?と唸った。どういうことだ、いや彼にも用があるだろうし自分と同じように休み時間に教室から出ることになんの不思議もないのだが、だったら先ほどの団体は誰に会いにきていたのであろう。このクラスで有名どころで、ああやって騒がれるようなのは奥村先生くらいだ。
続けて違和感その三、なにやらクラスの空気もどこかおかしい。俺が教室から出る前つまり5分かちょっとの間でクラスの中の空気がどこか変わっているのだ。特に女子、変に静かというか、先ほどの団体と同じようになにかそわそわとしている。何かあったのかと目を教室内に走らせてみるが一見なんの変化もない。なんだ?と思いながら自分の席に着こうと足を進めるが変に居心地が悪い。
決定的違和感その四、隣の席である櫛谷。そいつが首を傾げて唸っていたのだがまあそれはどうでもいい。なぜか櫛谷の机の上には綺麗にラッピングされたクッキーが置いてあった。明らかに貰ったのであろうそれをしかし、櫛谷は持て余しているようで困ったような顔をしており、流れでどうしたのかと聞けば「貰った」という。そして俺の中で色々と線が繋がっていく。教室前にいた女子の集団、一人頬を赤らめて出てきた志摩のクラスの女子、そして志摩が調理実習だと浮かれていた話まで思い出してピン、と全てが一本に繋がる。しかし繋がったからこそそれは決定的なほどに違和感を生じる。だって、なんで櫛谷がそれを貰うのだ。俺が言うのも失礼だろうが、櫛谷はあまり人付き合いが上手いという訳ではない。いや、初対面に対して滅法弱いと言えばいいのか。基本的に全員に対して線を引いているのだが、ある時から突然内側に入れてくれると言えばいいのだろうか。だからある程度慣れてくれば性格自体も人懐っこく真っ直ぐなものだから別段関わる人間を選ぶようなそんな質ではないのだけれど。閑話休題、話がそれた。
要は、こいつに他クラスの知りがいがいるとすればもう俺もある程度顔を知っているという事だ。だから櫛谷の友人に志摩のクラスの奴がいないことも知っているし、なによりこうやってクッキーを貰うような人間関係を俺が知らないうちに築けている筈がない。だからこそこいつもクッキーを前に首を傾げているのだろうし、俺の読みはほぼあっているのだろうことが伺えた。
そして、その原因すらも俺はこの直後に知ることとなる。違和感どころではない圧倒的に存在感を放つ櫛谷の腰に巻かれている黄金に輝く明らかに現実界のものではない布と貴金属を見て、反射的に本気でどついてしまった。





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投稿日:2017/1203
  更新日:2017/1203