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学園内を駆ける。身体中が脈打ち息が上がり苦しくても走らなければいけない。逃げ場などないとわかっているのに。
「はっ……はぁ……」
建物の陰に身を寄せて背をつけて息を整える。一休みなどできないとわかっているからか脈打つ体が収まることはなかった。追い詰められている危機感はあるも何とか息は整えていく。
手にあるスタンガンを見つめ握りしめる。けれど上着のポケットにあるものには触れない。触れたくなかった。
「後戻りできないのに今更だよね」
そう思ってもポケットに手をいれる気にはなれなかった。
「なずなちゃんの記憶はそのままで時間だけ戻れたらどうする?」
理事長室でいつものように雑談。なずなちゃんも乗り気ではないもののいつも僕に付き合うように返す。
「タイムスリップですか?」
「ん〜、正確にはループかな?」
「でも一度だけならタイムスリップと大差ないですよね。記憶はそのままですし」
僕が先程床に散らかした書類を拾っていく。その様子を眺めながら足を机の上に投げ出し組んだ。
「前とは違うことをします」
「学園に来ない?それともお兄ちゃんが学園に入らないように阻止するのかな?」
「雪柳先生を観察します」
彼女は書類を置きながら清々しく言った。挑戦するような態度に笑みが浮かぶ。
「僕を倒す方法探し?怖い怖い」
全く怖がっていないのは彼女もわかっているだろう。面白がっている。つまり彼女は今の状況に後悔がないということ。全く見せない態度がおかしくて笑ってしまう。
「いくら観察して調べたところで力がなければ駄目だってわかってますよ」
「じゃあ何のために観察するの?」
なずなちゃんならわかっているだろうとは思っていたけれどならばなぜ観察するなんて言い出したのかがわからない。
なずなちゃんは笑いかけて再び書類を拾い始めた。言う気はないということだろう。
「雪柳先生がループしたらどうしますか?」
今度はなずなちゃんが聞いてくる。書類を拾いながらだから顔は見えない。
足を下ろし立ち上がる。机に置かれた書類を手にしてなずなちゃんのそばに歩み寄った。
「実は僕、ループしてきてるんだよ。なーんてね」
そう言って笑いながら書類を彼女に向かって撒き散らした。
相手は二人だった。荒れた自分の息だけが響く。
地面には倒れた男子生徒が二人。スタンガンで気絶させた。
「三人以上になると厳しいかな……」
夜が明けるまでの鬼ごっこ。時間を確認するものは取り上げられ正確な時間はわからない。だから外にいた。極限状態に追い込まれては判断力が鈍ってしまう。
渡されたのはスタンガンと折り畳みナイフ。
『ちょっと趣向を変えてみようかと思ったんだ。大丈夫だよ。みんな君がナイフを持ってるのは知ってる』
先程突然言い渡された出来事が過る。何が大丈夫だというのか。はたしてみんな殺されるのを覚悟してまで私の体を求めてきているのか。覚悟してこられても私に生は奪えない。例え何が起こって何人の生徒が亡くなったのかを把握していたとしても。
そんな考えだから雪柳先生はこんなことをしだしたのだろうか。
「っ!?」
足音が聞こえ急いでその場を離れた。
理事長室で監視カメラの映像を切り替えて彼女の姿を追う。
彼女がどう対応するのかということに興味があった。
どうしてこんなに惹かれるのか。
「これが恋ってやつかな?甘酸っぱ〜い」
冗談を口にしていると複数の男子生徒が彼女を捉えたのか挟みうちにしようとしていた。複数相手でスタンガンだけでは退かせられないだろう。
ナイフを持ち出すか、自身を捧げるか。
直接見るために理事長室を後にした。
なずなちゃんは捕まり地下牢へ連れて行かれていた。
「凄い格好だね、スゴイスゴイ」
わざとらしく拍手を送る。地下だからか乾いた音が響いた。辺りからは呻き声が聞こえ処置をするよう連絡する。
ここではまともに会話できないだろうとふらつくなずなちゃんの腕を引き地上に出た。
「今見た感じだとみんな負傷させられただけだね」
シャツは脱がされ下着姿の彼女に上着をかける。座り込んで俯いていた。
「最中に反撃してくるなんて予想できないしね。おっかしかったよね〜かすっただけで大騒ぎ!あれだけいてもろくに反撃できないなんて情けなーい」
うなだれたままの彼女のそばに膝をついて口を耳元に寄せる。
「どうせなら腹上死させてあげればよかったのに」
シャツの襟元を掴まれ引き寄せられると唇を押し付けられた。すぐに痛みが走り離される。
「してみますか、腹上死」
「雰囲気がほしいな〜」
唇を舐めると錆の味がした。彼女は嘗めずに唇に血が浮かぶ。
「前にループしたらって話しましたよね」
「なずなちゃんが僕を観察するって答えたやつだね」
「何回も何回も繰り返して雪柳先生を見続けます」
表情から読み取れない。答えは変わらない。でもより僕を見るということを強調してきた。
「抜けたくなるかもね」
「そしたら雰囲気を作って腹上死でいいですか?」
この状況から抜け出したいとは決して口にしない。言うかと思ったのにこれくらいじゃ駄目だったようだ。
「擦りきれちゃうね」
「今もほつれていますからそれを結び続けます。だから」
彼女は自覚はしている。それでもこの場所に、僕のそばにいることを選び続ける。
その先の言葉は再び唇を押し付けられ紡がれることはなかった。
目を閉じずに唇を重ねる。同じように見つめ続ける彼女の瞳だけを映した。
元に戻れはしないし戻る気はない。彼女も僕も同じだろう。
H26.9.14
BARE END
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