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男子寮の幽霊。
廊下を歩いているとそんな噂を耳にする。

「これで五人目か?」
「でも先生に聞くと急な転校って言われるらしいよな。あ、雪柳先生!」
「ん?何かな?」

噂話をしていた生徒数人に呼び止められ立ち止まる。
訊かれることはわかりきっていた。
生徒は何処へ消えたのか、と。

「消えるわけないよ。ちゃんとこの学園を出て行ってるのを僕は見ているしね」

そう答えると生徒達はどこか残念そうにしながら散って行った。
怖がりながらも興味を持つ。

「怖い怖い」

口元に笑みを浮かべ歩き出した。


男子寮には夜な夜な幽霊が出る。かつて鹿野葵が使用していた部屋に。

明かりは点いておらず暗い男子寮の廊下を歩いていく。
鹿野葵は自主退学をしたと学園の生徒達には告げられていた。死んだことを知っているのは月華繚乱のメンバーとほんの一部の教師、そして彼女だ。

静かに扉を開け部屋に入り、扉を閉める。部屋の中にいる人物はまだ僕に気がついていないだろう。
月明かりで屋内は見えやすかった。
暗がりでも絨毯は赤いのがわかり、赤は広がっていく。赤の絨毯に身体が倒れ伏しているのが視界に入り呟いた。

「なずなちゃん、また殺しちゃったんだ?」

ベッドには衣服を乱れさせたなずなちゃんがいた。

「ゆきやなぎ、せんせい……?」
「うん、雪柳先生ですよ〜」

わざとらしく明るく手を振るとナイフを手にしこちらに向けかけていたのが下げられる。
鹿野葵が死んでから彼女はこの部屋に訪れ狂ったように“葵くん”と口にしながら体をまさぐっていた。慰められるわけはないのに身体を慰める。

「また悪戯されそうになっちゃったんだ?」
「葵君の部屋で、葵君の代わりになるなんて、葵君を何も知らないのに、葵君よりも気持ちよくするなんて、葵君はもういないのに、葵君は私を抱いてくれなかったのに、葵君は、葵君は、あおいくんは……」

段々と焦点は合わなくなり言葉にならなくなるとシーツを掴み、頭から被った。
思い切り息を吸い込む音がする。鹿野葵の残り香が残っているのだろうか。

「君は、どうして死なないの?」

疑問に思った。思い人がこの世を去れば、後を追う者もいるだろう。彼女の狂気じみた言動からそうしないのが疑問だった。
でもそれが見てて楽しくもあった。彼女は鹿野葵の命を繋いでいた医療器具のスイッチを切った。彼女が鹿野葵を殺した。罪悪感はないのか。逃げるように死ぬのではないかと、つまらない展開になるのではないかと観察していた。

「死んだら葵君に会えるんですか?」
「さあ?あの世で会おうって言う人もいるよね」

シーツの隙間から彼女の目が僕を見つめてくる。

「死んで私がいなくなったら葵君と会えなくなる。だってずっと考えていたら葵君と会える。葵君を殺したのは私、葵君がこの世から消えるのは私がいなくなった時。消すのは私。私の世界が葵君の全て」

泣いているように見えたけれど実際そうなのかはシーツの隙間からはわからない。

「……しばらくしたら彼を運ぶ人が来るけどなずなちゃんはそのままでいいからね」
「はい……」

床に倒れ伏した体を指して言うと彼女は静かに頷いた。
彼女の空間から退出すると笑いが込み上げそうになり抑える。
ゲームの終わったクイーンなのに終わらない。彼女には素質があった。思っていた以上の素質が。

「鹿野葵の名前を出さなければ彼女の身体で遊べたのかもしれないのにね」

彼女に刺された生徒達。彼らは鹿野葵を思い体を慰める彼女に鹿野葵の代わりに自分を使えばいいと言い出した。それは彼女の逆鱗に触れる。彼女はまるで修羅のように、世界を侵される事を拒み護る。殺してでも護るなんて愚かなクイーン。
彼らは確かに消えてはいないし学園から出るところを見ている。クイーンの世界に進入しようとし排除され骸となった彼らを。


「なずなちゃん」

数日後。学園の廊下で彼女を呼び止めた。
彼女は昼間は通常通りに過ごしている。何もなかったように。

「手、出して」
「……?はい」

疑問に感じながらも手を差し出す。その手にあるものを握らせた。
耳元に口を寄せそっと甘い言葉のように囁く。

「葵くんが使ってたマンションの鍵だよ」
「っ……葵君……」

彼女の目が夜のそれに変わる。手を恐る恐る少しだけ開き中にある鍵を確認すると強く握りしめ駆けていった。
駆けていく後ろ姿が見えなくなるまで見つめ、完全に見えなくなると反対に歩き出した。


H25.6.7

DAY&NIGHT:1
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