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身体が冷たさを感じて目を覚ました。
暗い中ぼんやりと灯る明かり。知っている場所でも私の部屋ではなかった。
そもそも私は部屋に戻っただろうか。学園にいたはずだった。
私は檻の中にいる。学園にある廃屋の地下にある牢屋だと思う。そこ以外思い当たる場所がない。

「誰?」

階段を降りてくる足音がして問いかける。こんな場所に入れられる理由も入れられる相手にも心当たりがなかった。
だから姿が見えて驚く。

「目覚めたのか、早いな」
「葵くん?」

驚いても葵くんの姿が見れて安堵する。
葵くんのお兄さんが亡くなってから数日葵くんは塞ぎ込んでしまっていた。みんなとは葵くんの問題だからと葵くんが立ち直るのを見守ろうという話になった。
でも段々学園内で見かける事が減っていくにつれてこのまま消えてしまうんじゃないかと思ってしまってそれから数日葵くんのそばにいた。はじめは嫌がていたけど段々話してくれるようになって嬉しかった。

「色々さ、準備しないといけねぇんだよ」
「何の準備?」

安堵したはずなのにすぐに違和感を感じ出す。
葵くんは檻の外から私を見下ろしている。なぜ見下ろしているの?

「聞かないほうがいいぜぇ?お前のためにもな」

ククッと以前の葵くんがよく見せた笑い。

「葵、くん?」
「だから準備が終わるまでそこにいろよ」

まるですぐに終わる用事かのような軽さで檻の中の私に告げる。
私をここに閉じ込めたのが葵くんだとは思いたくなかった。だけど否定ができない。

「葵くん、ここから出して」
「ダメに決まってるだろ」
「私をここにいれても意味ないよ?」

何かの間違いだと檻から早く出たくて葵くんに頼んでみる。
悪戯か私が気づかぬ内に葵くんを傷つけてしまったのかもしれない。なら謝りたい。
でもそんな懇願は虚しく葵くんから笑みが消えた。

「意味あるだろ。お前がどこにいるかわかる、オレから離れられない」

葵くんは両手で格子を握って屈む。同じ目線のはずなのにどこか虚ろな目は視線が合っているのに合っていない感覚にさせた。

「わたし……いっしょにいるよ?」
「いなかっただろ?いなくなった。一緒にいるって言ったのにいつの間にかオレから離れてたよなぁ?」

確かに私は一緒にいると葵くんに告げた。一人きりで寂しそうで、でも自分からは一人きりになりたくないと言えない葵くんが愛しかった。
ずっと一緒にいるつもりだった。だけどそれは片時も離れないという意味ではない。

「一緒にいる。だけど学園もあるし寮も違うから片時もって……」
「離れるのかよ……一緒にいたくないのかよ」

額を格子に擦り付けながら弱々しく言われたその言葉は泣きそうに聞こえた。

「葵くん……」

どうしたら伝わるのか。どう言えば葵くんの不安はなくなるのか。
考える前に格子を握る両手に手を重ねていた。冷たい手は葵くん自身のようで暖めてあげたかった。

「……いてくれよ。オレを、置いていかないでくれ……」

すがるような声音に返す言葉がなくて手を握る。
私の手も冷たい。でも握る事はできる。

「ここにいたってずっとなんて無理なんだ」

手が振り払われて葵くんは立ち上がった。
すぐに視線で追うと檻の鍵を外している。
わかってくれたのかもしれない、伝わったのかもしれないと思いかけてすぐにそれは彼の手に持つ物が否定した。

「なぁ、なずな。お前は一緒にいてくれるんだろ?」

檻の中に入ってきた葵くんはゆっくりと私に近づいてくる。
距離なんてそんなにないのにゆっくりと焦らすように試すように、手にするナイフを見せつけるように。

「オレだってこんな事したくねぇんだよ……でも、お前が離れていこうとするから」
「……葵く、ん」

寒いからなのか怖いからなのかわからずに震える。やっと口にした名前も彼に聞こえたかはわからないぐらい小さかった。

「そばにいてくれるよな?」

葵くんはナイフをちらつかせながら微かに笑む。
私は後退りもできずに私の目の前で膝をついて屈む葵くんを見つめる事しかできない。

「お前はあったかいよな」

葵くんに抱き締められた。嬉しい気持ちが沸き上がる。
こんな異常の状態なのに私の温もりを求めてすがってくれる事に嬉しさを感じている。

「……葵くんは冷たいね」
「あぁ……だからお前がそばにいないとダメなんだ」

葵くんはナイフを手にしたまま私を抱き締める。
私がもしも少しでも離そうとするなら迷いなくそのナイフを突き立てて、そのまま自分に埋め込むだろう。
どちらの選択をしても葵くんは私のそばから離れるつもりはない。

「葵くん」

両腕を葵くんの背に回す。それに安心したのか僅かだけ私を抱き締める腕の力が緩んだ。

「ずっとそばにいるよ。もしそばにいられなくなるなら私が全部終わらせてあげる。葵くんを一人にはしないよ」
「ほんとうか?」
「うん」

葵くんは身体を離して私を見つめる。
強気な葵くんは今は見えない。ただ私を求めるだけ。

私が笑むと葵くんは顔を俯かせた。視線をそのまま下に向けるとナイフが差し出されていた。
そのナイフを受け取るように手を出せば、ナイフと共に葵くんの手が重ねられた。どちらも冷たい。
言葉は交わさずに顔が引き寄せられキスをする。
重ねた唇は温かくて、まるで誓いの口づけのようだった。



H24.1.27

檻の中
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