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「葵君、風邪ひいちゃうよ」

眠っていたはずなのになずなの声ははっきりと聞こえ目を覚ました。

「……体いてぇ」

頭や背中が痛み呟くとなずなは手を差し出した。掴むと引き上げられ体を起こす。

「なずな待って寝てたんだったか……」
「体解した方がいいよ?」

短期間ですっかり見慣れた図書室を見渡す。
図書室内は静まり返り誰もいない。

「なずなが体揉んでくれたらすぐ治るっつーの」

いつもの軽口だと思いなずなは流すように視線を別の方向に向けた。

「この高さの本でよく眠れたね」
「本?そういやあったな。固くて最悪だった」

椅子をいくつか並べ簡易的な寝床を作り、机に置かれていた本を枕がわりにしていた。
なずなに言われた通り体を解すため立ち上がり両手を上げ伸ばす。

「なずな?」
「なに?」
「何かぼぉーっとしてるから何かあったのかと……“たせかいかい……”なんだ?」

なずなはオレが枕にしていた本を手にし見つめていた。
覗きこみ本のタイトルを読もうとして読めなかった。

「“多世界解釈”」

なずなが読み上げてもよくわからず字から予想してみる。

「世界がたくさんあるのか?」
「うん。私達が知らない世界があってその世界にも私達がいるかもしれないっていう考えがあるんだって」
「は?」

説明されても更によくわからなくなる。

「解釈によって違うけど、例えばこうして葵君と私が一緒にいない他の世界があるかもしれない」
「なんだそれ。わけわかんないっつーの」

なずなの言葉にオレのそばになずながいないのを想像してしまい否定するように言う。
なずなは本を置いてオレの顔に手を伸ばしてきた。

「ごめんね」
「何で謝るんだよ……」

温かい指先が頬に触れる。なぜなずなが謝ったのかはわかった。きっとオレの表情は酷いものだろう。

「何となくはわかった。ならきっとなずなが選んだ瞬間世界ができるんだろうな」
「え?」
「だってそうだろ?オレはきっとどこにいても“鹿野葵”だ。ちょっとやそっとじゃ先なんて変わらねぇよ」

なずながオレを見つめる。すぐに手が離れて身体をくっつけてきた。背中に腕が回り抱き締められる。

「何であんなの枕にしてたんだろうな。夢見悪いったらねぇよ」

机に置かれた本を苦笑しながら見つめる。もしもなずながいなかったらと思うと怖くなった。諦めてヤケにもなってたはずなのに今の状況に幸せを感じてしまっている。だから怖くなった。

「葵君」

力強く抱き締められる。痛みすら感じるほど離さない事を表す行為に安心した。

「なずながオレの方に来てくれたから今こうしてるんだよな」

抱き締めてくる小さな身体を抱き締め返した。

「……髪伸ばさねぇの?」
「葵君は長い方が好きなの?」

なずなの髪の先を弄りながら待っている間見かけたカップルを思い出した。

「膝枕しながら髪の毛触れていいな……」
「葵君?」
「はっ!?ち、違うっつーの!羨ましいとか思ってねぇからな!」

なずなに顔を上げて呼び掛けられ、声に出していたことに気づいた。
なずなの長さだと手伸ばさないと駄目だしなとか思って想像してしまったことは言わない。
ごまかすことはできずなずなは再び顔をオレの胸に埋め小さく笑った。

「笑うなっつーの」
「だって葵君が可愛くて」
「ハァ!?……そんなこと言えないようにしてやるよ」
「え?あっ」

なずなの身体を離し机にうつ伏せにさせ両手を机の上に片手で押さえつける。
体勢が突然かわりなずなは少しだけ抵抗してすぐにおとなしくなった。

「抵抗しなくていいのかよ。誰か来るかもしれねぇぜ?」
「……来ないよ」
「は?」
「わたしが貸し切り許可貰って鍵閉めたから……」

思わぬ言葉にしばし止まる。やがて笑みが浮かびなずなの身体に身体を密着させた。

「そんなにオレと二人きりになりたかったのかよ。前は図書室でするのは嫌がったのに」
「葵君がここで待っててくれるからだよ。前なら図書室にずっとなんていなかったでしょ?」
「当たり前だろ。なずながよく来る場所だから……」

一緒にいるから変わった事。
どんなに世界があったとしてもオレの幸せは変わらない。どんな形であってもなずなと一緒ならば幸せなんだろう。だからそれを知ってしまっているとなずなと一緒にいないオレがいるのかと思うと怖く感じ、同時に今の状況に幸せを感じる。

「っ……葵君」

腕の中でオレを呼ぶなずなの甘い声に酔うように瞳を閉じた。



H25.6.13

いくつ世界があったとしても
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