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「葵君、七夕の短冊書いた?」
「あぁ、何か理事長が用意したとかいう笹のやつか。バカみたいに大きいやつ」
「その言い方だと書いてないんだね」
昼食。なずなが作ってきた弁当をつつく。暑くなってきて屋上は日射しが強いからと適当に空き教室に入った。
「願い事なんて簡単に叶うわけねぇからな」
箸を口に運ぶ。肉は極力少なめにされてもやはりありまだあまり食べられない。残したくない気持ちはありつつも食べられなかった。
「なずなは書いたのかよ」
「え?」
口にしてしまい空気が変わったことがわかりわざとらしく変えるように話しかける。
「書いたよ?」
「なんて?」
すぐには言わずに俯き弁当を見つめる。ゆっくりと箸を運び小さな口で食べる。
「……書いてないの」
「は?」
「書きたいのに書きたくなくて。だから葵君がまだなら一緒に書けるかなって」
「願い事がないわけじゃないよな」
いつしかなずなと同じようにミートボールが残った弁当を見つめていた。
「さっきさ、願い事なんて簡単に叶うわけないっつったよな」
「うん」
なずなが驚き空気がかわったのはきっとなずなもどこかでそう思ってたからだ。
何てことはないのに叶えることが難しい。その願いを揺らがさずに立っているのが辛い。なら見ぬ見ぬふりをしてしまえばいい。そんな願い持ってないと。
以前のオレならそうだった。
「葵君!?」
置いた箸を握りしめ残った丸い物体に突き刺しそのまま勢いよく口に運び箸を口から抜いた。
「う……」
額を机に打ち突っ伏す。口にあるだけで吐き気がする。味なんてわからない。早く噛んで飲み込んでしまいたい。
「葵君、吐き出して!」
すぐ真上からなずなの声がする。しかし吐き出すことはせずに片手を上げると両手で握られた。
「食った!きもちわる……」
顔をあげて飲み物が注がれた蓋を手にし飲み干す。
「葵君どうして?」
「なずなと生きていくには食べなきゃいけないしなれてかないとな。オレの願いを叶えるのはオレとなずなだっつーの。だから書く必要なんてない」
今のオレは叶えたい願いがある。置き去りにできない思いも人もいる。それは以前のオレが見てみぬふりした願いに通じるものがあった。
「……わたしが願い事を書けなかったのは誰かになんて叶えてほしくなかったからなの。葵君を幸せにするのはわたしだから」
複雑そうに笑うなずなの手を引いて胸に顔を埋める。
「それでいいんだっつーの」
だからどこか後ろめたい気持ちでいるのはやめろとは言わなかった。言ったところでどうにかなるものではない。
事実オレを幸せにできるのはなずなだけでオレの願い事になずなは必要不可欠なのだから。オレ達二人でいるだけでいい。
H25.7.7
願わない叶え事
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