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昼休みになっても葵くんは登校していないようで教室を覗いても姿がなかった。すると携帯にメールがきてその足で男子寮に向かうことになった。
午後はサボることになってしまうけれど葵くんが部屋に来いと連絡してきたなら行く以外選択肢はない。

「葵くん?」

葵くんの部屋前まで来るとノックをして呼び掛けた。何もないならいい。でも体調が悪くて出てこれないのかもしれないと思うと早く葵くんの姿が見たくて仕方がなかった。

「入れ」

鍵があける音がして声が聞こえた。起き上がれることに安心しながら扉を開けた。

「葵くん、どうしたの?」

部屋に入ると葵くんは背を向けて佇みシーツを被っていた。

「鍵閉めろ」

言われて鍵を閉める。でも葵くんは何も言わない。

「シーツ頭から被ってたら暑くない?」
「平気」

平気ならなぜシーツを被っているのだろうと不思議に思うも葵くんが聞くなと言うように背を向けている気がした。でもこのままこうしていても時間は経つだけ。

「葵くん、シーツ取ろう?」
「いい」
「私の事見たくもない?」
「ちがっ、あ!」

振り向いた瞬間にシーツを引っ張った。

「み、見んな!」
「耳……いぬ、みみと尻尾?」

振り返りシーツを取り去った葵くんには犬のような耳と尻尾が生えていた。

「本物?」
「そうだよ!」

頭に生えた犬耳を両手で押さえながら尻尾が揺れた。

「朝起きたらこうなってたんだっつーの!」
「感覚はあるの?」

近寄り耳に手を伸ばす。葵くんは退きそうになりながら制止する。指先でそっと触れるとふさふさの感触と温もりが伝わった。

「何かくすぐったい」

感覚があるのがわかりもう片手を伸ばすと耳を押さえていた葵くんの両手が降ろされた。

「気持ちいい」
「怖くないか?」
「どうして?」
「いや、だって……」

毛の感触を堪能するように触る。触る前に葵くんが退いたのも姿をなかなか見せたがらなかったのも私を怖がらせるんじゃないかと思ったのだとわかった。

「葵くんだから怖くない。可愛いよ」
「なずなに可愛いって言われたくない」

耳に向けていた視線を下げると不満そうな顔に笑ってしまう。すると強く抱き締められた。尻尾が足に触れてくすぐったい。

「鏡見て狼みたいだって思ったんだ」

確かに狼に見えるかもしれない。抱きこまれ耳元で葵くんが話し続ける。

「なずなにだけは怖がられたくなかった。怖がられたら、離れていかれたら……」

続けて囁くようにけれど縋るように必死に言われた言葉に驚きはしなかった。不思議と自分の中にはまる。
耳に触れた手は離さずに爪先立ちした。できるだけ葵くんの耳元に近づけるように。どちらの耳からの方がより聞こえるのだろうと思いながら。

「葵くんになら食べられてもいいよ」

尻尾が足に絡まる。

「怖がらないし離れないけど、葵くんが私の前からいなくなるくらいなら私が葵くんの中にいたい」

半日も離れていないのに不安だった。消えてしまうのではないかと不安で仕方なかった。葵くんが不安だったならそんな不安を消し去りたい。

「なずな……」

泣きそうな声に目を閉じる。きっと今は泣き顔を見られたくないだろうから。食べられてしまいそうなキスを受け止めながら私も貪るように返した。


H28.9.14


食べられてしまいそうなキスを貪るように
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