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この学園でおれ達は居場所がなくなっていった。デート倶楽部一つを除いて。
昼食や放課後はそこへ向かう事が多くなった。
今は先生に頼まれて提出課題を職員室へ運んだあとだ。
態度が変わったのは生徒だけ。先生はおかしなほど変わらない。デート倶楽部に関わるようになってからできるだけ関わらないように務めてるんだろうけど。
「兼田くん」
後ろから高めな声で呼びかけられて立ち止まった。振り返らなくてもわかる。雪柳先生だ。
「あれ、聞こえなかった?」
小走りで近づく足音がしてすぐに前に回りこんでくる。
「そんなわけないよね、立ち止まったんだし」
「何か用ですか?」
いつもとかわらない笑顔。自分でも振り返らなかった理由がわからず、流す事にした。
「あれから大丈夫かなって思ってさ」
「おれは平気ですけど妹は……おれより妹を気にかけてやって下さい」
「うんうん、兄妹愛だね。でも君達の愛は違うんだもんね?」
わざわざ確認せずとも学園中に噂が広まっているし、おれ達は否定をしていないのだからわかるだろう。
さすがに不快に感じた。
「僕が君に聞いた大丈夫は違う“大丈夫?”だよ」
「……何が言いたいんですか?」
「これ以上は聞かないよ。面白いからね」
それだけ言って雪柳先生はひらひらと手を振って去っていった。
何故おれに声をかけたのかはわからず、ただ最後に見せた笑みが意地の悪い悪魔を思い起こさせて笑ってしまった。
再び足を進めて部室へ向かう事にした。
「お兄ちゃ…侘助」
「あれ、みんなは?」
部室に来るとそこにはなずなしかいなかった。
「まだみたい」
そうと相槌を打ちながらなずなが座るソファに腰かけた。
前なら隣に座ってもなずなから緊張も感じなかった。でも今はわずかに心地良い緊張を感じる。
「あれ、本読まないの?」
「うん」
なずなは広げていた本を閉じた。
自分でもわざとらしい問い掛けだと思う。でもなずなは気付かないだろう。
「二人きりになるの少し久しぶりな気がするな」
「そう?ひゃっ」
指を毛先に触れさせるとなずなは驚いて横に倒れそうになった。
倒れてしまえばそのまま覆い被されたのに。かろうじて腕で支えてしまったようだった。
「髪にごみついてた」
「あ、ありがとう」
顔を赤くさせながら視線を微かに逸らされる。
意識されてるのがわかるだけで興奮してしまう。今までが今までだったから当然なのかもしれないけど。
恋人でありながらも兄である事も捨てない。普段通りの態度でいればいるほどなずなは戸惑い、俺を兄と呼びそうになり名前で呼び直す。
「どうした?顔赤いけど。風邪か?もう寮に戻ったほうがいいんじゃないか?」
額に手の平をつけて熱を計るふりをする。
「過保護なの変わってない……大丈夫だから」
「心配させろよ。ずっと見てきたんだからさ」
「……うん」
ずっと感じてきた。
おれ達は血が繋がってなくてもずっと一緒に暮らしてきた兄妹だから恋愛感情なんておかしいんだ。
でもおれはお前にそんなおかしな感情を持ってしまった。
それをお前も感じてくれてるなんて嬉しくて仕方ない。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。風邪ひいてないし」
「じゃあキスしてみて」
「な、なんで!?」
立ち上がりそうになったところを肩を押さえて留まらせる。
本当は風邪気味かもとか言いながら逃げられてはたまらない。
「風邪ひいてないならできるだろ?」
「それは……」
なずななら本当に風邪をひいていたら移す可能性があるキスはきっとしない。
風邪と言い張るか、それとも……。
「……目、閉じて」
「わかった」
肩から手を離し、言われるままに目を閉じた。
小さく息を吐く音がして近づく気配がわかった。
「……っ」
両手が肩に軽く添えられた感触がしたすぐあとに唇に温かい感触がした。
「っ……!お兄ちゃ……んっ」
離れる前に両手をなずなの身体に回して離さないように後ろ頭に触れた。
軽く触れただけのキスが深いものになる。
抵抗もなくキスを交わす。荒れる呼吸すら塞いで熱が籠る。
お前は今どんな気持ちなんだろう。
居場所のなくなったこの学園で兄への抱いてはいけない思いを抱えて、苦しいのだろうか。
おれも苦しかったよ。
今も苦しいけどそれすらも快感で、今は天国にいるような気分だ。
お前もおれと同じ気持ちなんだから。
なずなに触れながら先程の雪柳先生との会話を思い出した。
『僕が君に聞いた大丈夫は違う“大丈夫?”だよ』
深みにはまっていく感覚。
きっと大丈夫なんかではないんだろう。
でも妹と一緒に堕ちれるのだからそんな事どうでもいい。
H23.9.27
一緒に堕ちれるのだからそんな事どうでもいい
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