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「あ〜あ、もうさすがに帰らないと駄目だよねぇ。さっき翔クンにも注意されちゃったし帰ろうかな、帰ろっと」
加修は化学準備室を名残惜しそうに見つめ照明を消し扉を開けた。
「きゃっ」
「ん?」
扉を開ける音が響いたがあるはずのない音が聞こえ首を傾げるとすぐ前方に音の主を発見し駆け寄った。
「あれあれあれぇ?小さい女の子だね?」
尻餅をつき身動きがとれないまま加修に近づかれた少女は怯えながら後ずさろうとした。
「待って待って。何してるの?迷い込んじゃったの?」
加修は少女の腕を捕み制する。先程名残惜しそうにしていた様子はなく、興味は目の前の少女にあり生き生きしている。
「でも駄目だよ。君みたいな小さな女の子がこんな夜遅くに出歩いたら。この学園の生徒だったら校則違反だったのになぁ」
残念そうにしながらも腕からは手を離さず少女に笑いかける。少女は怯え抵抗を見せる。
「とりあえずボクとお話ししようか?話を聞かないことには送れないしね」
恐怖しか感じていなかったであろう少女はその言葉に少しだけ安堵したのか力が体から抜けた。
「神隠しって信じてもらえるかな?」
「っ!?は、離してくださいっ」
「あはは、うそうそ。さすがに怒られちゃうよ。ああ、でも君ちゃんと話せるんだね」
嘘だと口にはしても信じられず少女は更に警戒する。
「やっぱり声は聞きたいよね。そうだ!なんと……ジャジャーン!甘くて蕩ける美味しい美味しい角砂糖!食べたいよね?食べたいよねっ?」
ビンを取りだし少女に突きつける。気圧されて何も言えずにいると加修はビンを床に置き蓋を開けた。
「美味しいものを食べれば美味しー!って声上げたくなっちゃうよ!ね?ねっ!」
角砂糖を一つ摘まみ少女の口に押し付ける。少女は頑なに口を開こうとはしない。
「子供は甘いものが好きって決まってるようなものなのにおかしいなぁ。ん〜」
押し付けていた角砂糖を自分の口に放りこみ笑いかける。少女は怯えと戸惑いを混ぜたような表情をして加修の様子を見つめる。
「変なものとか入ってないから、ね?」
また角砂糖を摘まむと今度は口に押し付けずに差し出した。少女は躊躇いながらそっと角砂糖に触れる。加修が離すと少女の手に角砂糖が渡った。
「……あ、あーん」
「あれ、君が食べるんじゃないの?あ!食べさせあいっこだね?」
少女は小刻みに頷く。加修はおとなしく従い口を開く。
「目を閉じて下さい」
「何で?」
「目を閉じた方が美味しい、です……」
「確かに言われてみればそうかも?じゃあ、はい!」
首を傾げながらも納得し体勢を正し少女から手を離す。正座をし膝に両手を置いた。目を閉じ口を開け待つとすぐに口の中に固形物が放られる。
「ん〜、今か今かと待ち望みながら食べた角砂糖は格別!しかも君みたいな可愛いいい声で叫んでくれそうな……あれ?」
角砂糖を砕き堪能してから目を開けるとそこには誰もいなかった。
「神隠し?のわけないよね。隠すならボクが隠したかったなぁ」
残念そうに呟き夢かと過るが口の中に残る甘味が少女がいた証拠のように残っていた。
立ち上がり化学準備室の戸締まりをしその場をあとにした。
H26.5.23
加修
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