novel top ▲
昼休み。見知った後ろ姿に静かに近寄り声をかけた。
「トリックオアトリート」
振り返ると然程驚いた様子もなくマフィンの入った袋を出された。
「調理実習だったんです」
「それはまたタイミングがいいですね。いただいていいですか?」
「はい、貰って下さい」
受け取り以前の調理実習では半ば奪う形でクッキーを貰ったことを思い出す。
「資料を取りに行きたいのでお手伝い頼んでいいですか?」
資料室では特に会話もなく資料を取って行った。
「ちゃんと戻しておけよ」
必要な資料が所定の位置になく呟く。生徒か教師かは知らないが元にあった位置にすら戻せないのか。近くを探しつつ川奈は終わったか声を掛けようとする。
「っ……!?」
脇腹を突然つつかれ驚いた。この場には二人しかいないのだからやってきたのは川奈だ。
「どういうつもり、ですか?」
川奈は悪意のなさそうな笑みを浮かべさながら子供の悪戯が成功したかのように楽しげに見えた。
「トリックオアトリート、悪戯です」
「言う前にやるのは卑怯ですよ」
弱点は知らないはずなのにつかれその点でも驚く。知っているのは一人。大方面白そうというだけで入れ知恵されたのだろう。
そこはかとなく嬉しそうな彼女に少々面白くない。
「言ってもお菓子は渡せませんよね」
「……校則違反になるからな。よくわかっていますね」
川奈が菓子を持っているわけがないとわかっていながら先程は声をかけた。どうやらそのことを見抜いての仕返しなのかたまたまなのか。
このままなのも癪で脇腹をつくため近寄ってきていた川奈に顔を近づける。
「お菓子は無理でも他に甘いことはあるかもしれませんよ」
目を見開く川奈が面白くてとりあえず気が済み顔を離した。
資料探しに戻り川奈も何事もなかったように手伝いに戻る。こんなの日常茶飯事だ。だがこんな日常も悪くない。
「ところで脇腹の件は海里に聞いたんですか?」
「はい」
一体どんな流れで聞いたのかは気になるが、あとで海里にも何かすることにしよう。
放課後食べたマフィンは甘さが控えめだった。まるで初めから俺に渡すために作られたかのように。
H26.10.31
悪戯と弱点
prevU
next