下校


放課後。急いで帰り支度をしているとクラスメイトが声をかけてくれた。

「更衣さん、今日一緒にどこか寄らない?」
「すみません。今日は用事があるので」

教室に残っている数名の女生徒が私を見ている。この十字学園に通い初めて数ヶ月。何度か一緒に帰りを共にした。

「じゃあ仕方ないね」
「はい、すみません。よろしければまた誘って下さい」

そう告げると皆さんは笑って別れの挨拶をしてくれて、お辞儀をし鞄を手にして教室を出た。
小走りで廊下を駆けていく。

「……天気はあまり良くないですね」

窓から見える雲は暗く、寒さから雪が降るのではないかと思った。
昇降口で靴を履き替え校門へと向かう。

「小夜ちゃん」

校門を出た瞬間に聞きなれた声がして振り返る。

「文人さんっ!」

門の脇に佇んでいたのは見知った人で大きな声で名前を口にすると文人さんは自分の口の前に人差し指を立てた。

「す、すみません」

言われていた事を思いだし手で口を軽く押さえた。

「大丈夫だよ。連絡もせずに来たのは僕だから驚くよね」
「はい、驚きました。文人さんはどうしてこちらに?」
「せっかくまとまった時間の休みだから小夜ちゃんと買い物をしようと思って」
「本当ですか!?」

文人さんは大きな会社を経営されているとかでなかなか長時間の休みはなく、すれ違いで会えない事もあった。
今日はまとまった時間ができたと教えてもらい急いで帰ろうとしていた。

「じゃあ行こうか」

文人さんが歩き出しその横について並んで歩いた。


「そのコートでよかったの?」

店から出ると文人さんが問いかけてきて、両手で持つ紙袋を見つめた。
丈の長い薄茶色の上着。一目見てこれがいいと選んだ。

「はい!」

顔を上げて頷くと文人さんは少し驚きながらも笑みを浮かべてくれた。

「ですが何から何まですみません……」
「気にしないで、と言っても無理か。小夜ちゃんといると楽しいからいいんだよ」

俯きかけて文人さんの言葉に顔を上げる。すると頭を撫でてくれた。
背に触れられ歩き出す。


約半年前。目が覚めたら記憶を失っていた。
目覚めた場所が文人さんの屋敷で、文人さんは記憶を失う前の私を知っていた。
そのまま屋敷に置いてもらうことになり学校にまで通わせてもらっている。
何も返せなくて申し訳なくなった。


「もう冬だね」
「はい、寒くなる季節ですね」
「寒いのは苦手?」
「苦手、とかはないですね。耐えられない事はないですし」
「僕は好きだよ」

信号待ちで立ち止まるとその言葉にどきりとした。
なぜかはわからない。文人さんを見上げるといつものように笑っていた。

「何か食べ物も買っていこうか。甘いものがいい?」

見つめていると話が変わり我にかえった。

「はい。お団子とか食べたいです」
「じゃあ買って帰ろう」

信号が変わり、音が鳴り出し足を踏み出す。
ふと空を見上げて、先程と同じように雪が降りそうだと感じた。



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