友人
お昼休み。
今日は天気がよくて外で食べたくなった。
でも季節は冬。寒い中、いつも一緒に食べている皆さんを付き合わせるのも申し訳なく用事があると告げ屋上に向かっていた。
「嘘をついてしまいました……」
屋上に向かって駆けていた足が緩くなる。
でも前に一度外で食べるのにつきあわせてしまった。やはり人にはこの寒さは辛い。
「あ、いけません。お昼休みが終わってしまいます」
再び階段を駆け上がり扉を開ける。
眩しい陽に目が細めながら屋上へと足を踏み入れた。
「いい天気です」
扉を閉め空を見上げる。外気は冷たくても風は静かで陽が暖かい。
息を吸って鼻歌を口ずさみながら歩き出す。
「ひゃっ」
何か落ちた音と声が聞こえ振り返ると見知らぬ女性徒と目が合った。
「あ、えと……」
「こんにちは。貴女もお昼ご飯ですか?」
「は、はい」
短い髪に眼鏡をかけていた。
屋上にはたまに来るけれど誰かに会ったことはなく、それがお昼ご飯を食べているかたなら尚更嬉しい。
「ご一緒してもよろしいですか?」
勢いよく近づいてしまったせいか女性は後ずさる。
驚かせてしまったかと一歩後ろに下がり、膝をついた。
「……私でよければ」
「ありがとうございますっ!」
壁に寄りかかり昼食を摂っていた女性は横にずれ私の座る場所をあけてくれた。
「あ、お箸落としてしまったんですね……すみません、私が突然ここに来てしまったから」
自分のお弁当箱を出しながら話していると女性が転がった箸を拾っていた。
「気にしないで。残そうと思ってたから」
「いけません!」
女性の言葉につい大きな声が出てしまう。驚いて目を見開く女性に自分の箸を差し出す。
「え?」
「使って下さい。私のお弁当は手で食べれるものですから」
「でも」
「まだ食べられるなら食べて下さい。お腹が空いたら悲しくなってしまいますから」
「悲しく……?」
「はい」
女性は私をしばし見つめたあと笑みを浮かべた。
「一緒に、は無理かな?」
「一緒にですか?」
自分の持つ箸を見つめ、女性の言葉の意味を理解しようとする。
この箸を一緒に使えばどちらも箸を使える。それは素敵なことに思えた。同じ時間を共有しているのが実感できる。
「では一緒に使いましょう!」
昼食が終わる頃には昼休みの終わりが近かった。
屋上の扉までくると後ろから声がかけられる。
「箸ありがとう。よかったらお礼したいからまたここで会えたら……」
「はい!あ、でもお礼はいいです。私も嬉しかったので」
「嬉しい?でも……」
俯きしばし考える様子の女性を待っていると顔を上げた。
「またお昼ご飯を一緒に食べてくれる?」
「いいんですか?」
「貴女がよければ……そういえばまだ名前聞いてなかったね。私は柊真奈」
「私は更衣小夜です」
「綺麗な名前だね」
「ありがとうございます!真奈さんの名前も素敵です」
名前を誉めてもらうのは嬉しかった。同じ読みはあっても字はあまりないらしく同じクラスのかたにも言われたことがあった。
「えと……じゃあ、小夜さん」
「はい」
視線をさ迷わせ少し躊躇しながら真奈さんに名前を呼ばれ返事をする。
「明後日のお昼は大丈夫?」
「小夜ちゃん、ご機嫌だね」
その日の夜。文人さんの帰宅が早く、夕食後に文人さんの部屋でお茶を飲んでいた。
「初めて会ったかたと昼食の約束をして嬉しいのかもしれません」
「初めて?いつもはクラスの子と食べているって話してたよね」
「天気がよかったので一人で屋上で食べたくなってしまって……」
「それで遭遇したんだ?運命の出会いみたいだね。女の子?」
文人さんの問いに昼休みに会った真奈さんの姿がはっきり浮かぶ。
「はい!私と同じように眼鏡をかけていらっしゃるのですが、髪は短いです。とても可愛らしく優しいかたです」
「そうなんだ」
こうして起こった出来事を文人さんに聞いてもらう時間も楽しかった。
話しながら約束した明後日のことがよぎり笑みが浮かんだ。
H25.1.24