ギモーブ


「ギモーブ?」
「はいっ」

お昼休み。屋上で真奈さんと昼食をとっていた。
今日も文人さんの手作りお弁当で忙しい中作ってもらって悪いと思うもやはり自分のために作ってくれたお弁当は嬉しかった。

「聞いた事はあるけど食べた事はないかな。マシュマロみたいのだよね?」

真奈さんに好きな食べ物は何かと訊かれすぐに浮かんだのは文人さんが作ってくれるギモーブだった。

「はい、形は四角いのですがふわふわです!」
「ふわふわ……」
「はい、食べるとふわふわになります」

食べた時の事を思い出す。すると真奈さんはふっと笑った。

「本当に好きなんだね」
「はいっ」

あれから数回こうして昼食を一緒にし会話をした。
クラスは別でも同じ学年だとわかり合同での授業で一緒になれるといいという話やこうした食べ物の話をした。
別れる時には次の約束ができるのが嬉しかった。


帰宅し自室に戻るため廊下を歩く。

「小夜」
「唯芳さん!こんにちは」
「あぁ……こんにちは」

呼び止められた声の主がすぐにわかり振り返りながら名前を口にする。
唯芳さんは文人さんの親戚でこちらの屋敷に住んでいる。でも仕事の関係で屋敷を空けることも多く会えたのも久しぶりだった。
突然屋敷に来た私に対しても優しくしてくれて、一緒にいるとどこか安心した。

「言伝てを預かってな」
「はい」
「文人は夕食前には戻るそうだ」
「今日は早く帰宅されるんですね!」
「そのようだ」

文人さんとは会えない日もある。お弁当だけは用意されていて屋敷のかたに渡される。お弁当は嬉しくも会えないとやはり寂しかった。

「唯芳さん?」

頭を撫でられ微かに首を傾げる。すると唯芳さんは慌てて頭から手を離し、顔を逸らした。

「すまない」

それだけ言って背を向け立ち去ってしまう。
撫でられた頭に自分で触れてみる。撫でられた時の唯芳さんの優しげな笑みを浮かべながらしばらく佇んでいた。


自室に戻り着替えを済ませるとすぐに文人さんの帰宅を知らされ文人さんの私室へと向かった。
ノックをし返答があり扉を開くと珈琲の薫りがした。すぐにテーブルの上にあるものが目に入り小走りで向かう。

「ギモーブ!」
「最近作ってあげられなかったからね。どうぞ」

椅子に座るよう促され座るとカップが置かれた。
目の前にはピンク色の四角いお菓子が数個と珈琲の入ったカップ。
文人さんを見上げると微笑んでくれる。

「いただきます」

そう言ってギモーブを一つ手にして感触を確かめながら口に放る。
不思議な食感と味が口の中に広がる。

「……ふわふわです」
「ギモーブ?」
「はいっ」

お昼休み。屋上で真奈さんと昼食をとっていた。
今日も文人さんの手作りお弁当で忙しい中作ってもらって悪いと思うもやはり自分のために作ってくれたお弁当は嬉しかった。

「聞いた事はあるけど食べた事はないかな。マシュマロみたいのだよね?」

真奈さんに好きな食べ物は何かと訊かれすぐに浮かんだのは文人さんが作ってくれるギモーブだった。

「はい、形は四角いのですがふわふわです!」
「ふわふわ……」
「はい、食べるとふわふわになります」

食べた時の事を思い出す。すると真奈さんはふっと笑った。

「本当に好きなんだね」
「はいっ」

あれから数回こうして昼食を一緒にし会話をした。
クラスは別でも同じ学年だとわかり合同での授業で一緒になれるといいという話やこうした食べ物の話をした。
別れる時には次の約束ができるのが嬉しかった。


帰宅し自室に戻るため廊下を歩く。

「小夜」
「唯芳さん!こんにちは」
「あぁ……こんにちは」

呼び止められた声の主がすぐにわかり振り返りながら名前を口にする。
唯芳さんは文人さんの親戚でこちらの屋敷に住んでいる。でも仕事の関係で屋敷を空けることも多く会えたのも久しぶりだった。
突然屋敷に来た私に対しても優しくしてくれて、一緒にいるとどこか安心した。

「言伝てを預かってな」
「はい」
「文人は夕食前には戻るそうだ」
「今日は早く帰宅されるんですね!」
「そのようだ」

文人さんとは会えない日もある。お弁当だけは用意されていて屋敷のかたに渡される。お弁当は嬉しくも会えないとやはり寂しかった。

「唯芳さん?」

頭を撫でられ微かに首を傾げる。すると唯芳さんは慌てて頭から手を離し、顔を逸らした。

「すまない」

それだけ言って背を向け立ち去ってしまう。
撫でられた頭に自分で触れてみる。撫でられた時の唯芳さんの優しげな笑みを浮かべながらしばらく佇んでいた。


自室に戻り着替えを済ませるとすぐに文人さんの帰宅を知らされ文人さんの私室へと向かった。
ノックをし返答があり扉を開くと珈琲の薫りがした。すぐにテーブルの上にあるものが目に入り小走りで向かう。

「ギモーブ!」
「最近作ってあげられなかったからね。どうぞ」

椅子に座るよう促され座るとカップが置かれた。
目の前にはピンク色の四角いお菓子が数個と珈琲の入ったカップ。
文人さんを見上げると微笑んでくれる。

「いただきます」

そう言ってギモーブを一つ手にして感触を確かめながら口に放る。
不思議な食感と味が口の中に広がる。

「……ふわふわです」
「食べるといつもそう言うね」
「言い表せなくて……近いのがふわふわというか」

他に形容できないかと考えこむと文人さんの笑い声がして考えこみ閉じていた目を開けた。

「小夜ちゃんらしいからいいんじゃないかな」
「私らしい、ですか?」
「うん。感じたまま言ってくれてるから本当に好きなんだなってわかるよ」

昼に真奈さんと言われた事と同じような事を言われる。
誰かにこうして伝わっているのだと思うと安心し嬉しく思う。

「珈琲も飲んで」
「はい」

言われて冷める前に珈琲に口をつける。
甘い味を満たしていた口の中に苦味が入る。この苦味も好きだった。

「もっとふわふわ、かな?」
「はい、もっとふわふわです」

そうしてギモーブと珈琲をいただいてから文人さんに言おうと思っていたことを切り出そうとする。

「文人さん」
「何?」
「あの……ギモーブは私でも作れますか?」
「作りたいの?食べたいなら僕が作るけど」

向かいに座る文人さんが首を傾げ、言い出し辛く視線を俯ける。

「言って、小夜ちゃん。小夜ちゃんの言うことなら訊くよ」

躊躇いながら視線を上げると文人さんは変わらずに笑ってくれた。

「その……学校でお昼を一緒にしているかたがギモーブを食べた事がないと言われていたので差し上げたくて」
「最近一緒にお昼を食べてる女の子だね」
「はい……」
「いいよ」

無理を言ってしまったのではないかと思い文人さんを見つめる。

「ただし、小夜ちゃんのとは別の入れ物に入れるからあげるときは小夜ちゃんのはあげないようにして」
「……?わかりました」

ギモーブでも何か違うのだろうかと疑問に思いながらも返事をした。

「小夜ちゃんのは小夜ちゃん好みの味にしてあるから他の人が美味しいかはわからないんだ。せっかく食べるなら美味しい方がいいだろうし」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
「ん?」
「私のために作ってくださって」

お礼に対して文人さんが聞き返してきてそう口にすると一瞬顔から笑みが消えた。驚いたようにも見えたけれどすぐに笑みが浮かんで指先が頬に伸び、触れる。

「……小夜ちゃんのためだからね」

撫でられる感触を感じながら文人さんを見つめた。



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